2020年にデビューしたボカロP「Kanaria」が2022年5月2日にリリースした新曲『酔いどれ知らず』。
ボーカロイド「GUMI」の流れるような歌声とリズム感のあるメロディーが癖になる一曲ですが、歌詞の世界観も魅力の一つ!
ちょっと難しい歌詞ですが、中身を読み解いていきたいと思います。

酔いどれ知らず 歌詞考察
ではここから実際の歌詞の中身を細かく分けて見ていきましょう。
争っているのは誰?

まず「酔いどれ」とは酔っ払いのこと。
つまり「酔いどれ知らず」は酔っ払いを知らないということですね。
後述しますが、サビの部分では主人公が何かに酷く酔っ払っているような描写が出てきます。
歌詞の中に度々出てくる「酔いどれ知らず」は、自分ほど酔っ払っている人間を見たことがない主人公のことだと考えられます。
夜が明けるまで争いごとを続けている。当然くたびれて、声も枯れ、明け方の顔はさぞ酷い状態でしょう。
主人公は一体誰と、どんな内容で争っているのでしょうか。
偽りの幸せ

「うっちゃる」は「打ち遣る」が転じた言葉で、「投げ捨てる、放っておく、そのままにしておく」といった意味。
「うっちゃる幸せ」ということは、決して本当の幸せではなさそう。
でもそんな幸せでも「醒めないで」ほしい。
1番Aメロで「夢が覚めた」という歌詞が出てきましたが、「覚める」と「醒める」の使い分けにも注目してみると、「覚める」は「眠っている状態から起きる」という意味ですが、「醒める」の場合は「(酒などに)酔っ払っている状態から正気に戻る」という意味。
つまり、この幸せを感じている状態はある種正気ではない状態だと自分でも本当はわかっているということでしょう。
ここで「あなた」が登場します。あなたに屈しているような態度で何も言わずに従っている主人公。
あなたの言葉にきちんと耳を貸さずに、ただ屈している時間に、醒めないでほしい偽りの幸せを感じているようですね。
逆に言えば、あなたの言葉に耳を貸し、屈するのをやめてしまえば、その幸せはなくなってしまうものとも考えられます。
酔いどれ知らずの恋敵?

「泥泥(でいでい)」とは「よろめくさま。取り乱して前後を失う様」という意味。
「泥酔(でいすい)」という言葉もありますね。「泥泥」はひどく酔っ払っている様子を表しているのでしょう。
その後で出てくる「銘銘」は、本来は「おのおの、一人ひとり」という意味ですが、ここではおそらく泥泥と同様に酔っ払っている様子を表しているのではないかと思います。
「銘」という漢字には酔っ払うという意味があります。「酩酊状態」などの熟語がありますね。
「はられあられ」は造語のようです。
その後も「ホウライ」「ミリグラム」などどのような意味で使われているのかわかりにくい言葉が続きます。
これらは曲のイメージを固めるような言葉遊びの一つとして考えてよいと思います。
「はられあられ」も酔っ払ってふらふらとしている様子をリズムのよい語感で表現しているのではないでしょうか。
「ホウライ」という言葉からは私は「蓬莱山」をイメージしました。不老不死の薬を持つ仙人が住むと考えられていた中国の山です。
この「ホウライ」と、同じくサビに出てくる「泥泥」「銘銘」がどことなく中国っぽい雰囲気を醸し出していますね。
メロディーも中華風の雰囲気がありますし、MVのイラストの女の子もチャイナドレスを着ていることから、これらの言葉は曲全体の雰囲気を強めるのに一役買っていると思います。
このように、サビでは酷く酔っ払っている様子がリズム感よく表現されています。そしてその酔っ払っている事実に対して「悪くない」と歌っている。
酔っ払うというと通常は酒に酔っている状態のことを指すことが多いですが、Bメロで描写されていたように主人公は偽りの幸せの中にいることを合わせて考えると、酒ではなく今の状況に酔っているとも考えられますね。
そしてそれを自覚しながらも良しとしている。
では、最後に出てくる「酔いどれ知らずの恋敵」はどのような意味なのでしょうか。
主人公とあなたの他に恋敵である第三者が登場しているのでしょうか。
2番も見ていきたいと思います。
白昼夢に興じる主人公

「白昼夢」は日中、目が覚めているときに、空想や想像をまるで夢を見ているかのように映像として見ること。
「ロンド」は日本語で「輪舞曲」。多くの人が輪になって踊りを踊ることや、そのときに使われる曲のことです。
数しれない歌声に誘われて迷い込んだ場所は「君の✕✕」。これは君のなか、君の世界というように解釈していいでしょう。
白昼夢ロンドということは、昼間から主人公は酔っ払っているということ。
ここからも、酒に酔っているというよりは、今の偽りの幸せの状況に四六時中酔っていると考えられます。
心まで染まる

1番では「うっちゃる幸せ」と表現されていましたが、今度は「いっかの幸せ」。
「いっか」とはどういう意味か。私は2つの意味が掛けられているのではないかと思います。
一つは「一過」。「さっと通り過ぎること」という意味。「台風一過」などがそうですね。
直後に「晴れないで」とあることからも台風一過の「一過」が連想されます。一時的な、すぐになくなってしまいそうな幸せ、ということですね。
しかしそれだけの意味ならば「一過」と漢字で表記するはず。あえて平仮名で表記したということは、他にも意味があるはずです。
もう一つの意味は「まぁいいか」という意味の「いっか」ではないでしょうか。1番の「うっちゃる幸せ」と似たようなニュアンスになりそうですね。
なくなってしまいそうで、なくなってほしくない幸せに対して「まぁいいか」という気持ちもある。
このような矛盾した気持ちや訳がわからない状態は、まさに酒に酔っ払っている人によくあることではないでしょうか。
また、1番では「体を染めて」だったところが「心を染めて」に変わっています。体だけでなく心まで染められてしまっていますね。
酔いどれ知らずの物語

最後のサビでも、1番のサビと同様に酷く酔っ払っている状態が描かれ、やはりそれを「悪くない」と歌っています。
また、「将来像」が悪くないということは、今のままで迎える未来も良しとしている。そして「屈する私は生きている」とあります。あなたに屈している自分を受け入れていることがわかりますね。
これで歌は終わります。
歌詞を最後まで見たところで、途中疑問点としてあげた「1番Aメロで争っていた相手は誰か」「1番サビで出てきた恋敵とは誰か」について考察してみたいと思います。

1ヶ月無料で音楽聴き放題!
通常880円/月のAmazonMusicUnlimitedが今なら1ヶ月で体験可能!
この機会に聴き放題サービスをお試ししてみよう!
いつでも解約OK!
さいごに
私はこの歌1曲を通して、主人公と「あなた」以外の登場人物はいないように感じました。
最初から最後まで主人公は二人しか存在しない(周りの人間は見えていない)世界にいると思います。むしろ「あなた」すら存在していないかもしれない。「あなた」の声に耳を貸していないわけですから。
このことから、争っていた相手、恋敵は自分以外の周りの人間全員でもあり、同時に誰でもないと考えられます。なにせ主人公は自分の世界に酔っ払っており、もはや周りの人間は見えていないのですから。
主人公は白昼夢を見ているかのように自分の作り上げた世界の中にいるのです。そう考えると、その外側にいる人々は全員酔っ払ってはいないわけですから、酔っ払いを知らない『酔いどれ知らず』という表現も納得がいきます。
自分の世界の中で酔っ払っているような状態で偽りの幸せを感じながら、それを良しとしている、精神的に不安定とも言えるし強いとも言える主人公を描いた歌でした。
歌詞の内容と、中毒性のあるメロディーがぴったりマッチした歌ですね。
Kanariaさんの今後の楽曲にも期待が高まります。