ヒゲダンことOfficial髭男dismの「イエスタデイ」は、2019年10月にリリースされたメジャー1st(通算2nd)アルバム「Traveler」のリード曲。
2019年9月に先行配信され、アニメ映画「HELLO WORLD」の主題歌にも起用されたタイアップソングです。
作詞・作曲はボーカル&ピアノの藤原聡さん、編曲は音楽プロデューサーの蔦谷好位置さんとOfficial髭男dismが担当しました。
今回は「イエスタデイ」の歌詞について考察します。
イエスタデイ 歌詞考察!
「イエスタデイ」の意味
もともと「イエスタデイ」はアルバム「Traveler」のリード曲にふさわしい、強度のある曲を目指して作られました。
そのためOfficial髭男dismのルーツともいえるヘヴィメタルやブラックミュージックは鳴りを潜め、バンドサウンドとストリングスによるキャッチーなポップミュージックに仕上がっています。
つまり通好みの豊かな音楽性を封印し、幅広くわかりやすい方向性に振り切ったということ。
歌詞でもOfficial髭男dismというバンドとしてヒット曲を生み出す際の苦悩が描かれていて、「イエスタデイ」は大切な仲間を守るときに伴う犠牲について苦悩する歌だそうです。
音楽性や方向性などのバンドの物語を描きながらラブソングに見立てる手法は、藤原聡さんの常套手段といえるでしょう。
犠牲を払っても大切な存在を守るというコンセプトは、「HELLO WORLD」の主題歌としても合致。
その結果「イエスタデイ」はバンドの物語、一般的なラブソング、「HELLO WORLD」の物語の三本立てになっています。
バンドの物語としては「通好みのファンを泣かせても、より多くの一般リスナーを笑顔にする」、「藤原聡さんだけが悪者になり、音楽的な理想論を捨てる」といった意味でしょう。
一般的なラブソングとしては「みんなと仲良くしたいという望みは捨て、誰かに嫌われようが君1人を守りたい」と解釈できます。
「HELLO WORLD」を観た人にとっては、映画の物語そのものと感じられる歌詞になっているでしょう。
映画の舞台は、男子高校生・直実(声:北村匠海さん)と女子高校生・瑠璃(声:浜辺美波さん)が存在する2027年の京都。
そこへ10年後の直実自身であるナオミこと先生(声:松坂桃李さん)が、2037年の未来からやってくるというSF映画です。
先生は「この2027年は仮想世界。3か月後の7月3日に瑠璃が亡くなる」と言い、直実と先生はその運命と仮想世界の自動修復システム「狐面」に抗います。
歌詞にも出てくる「イエスタデイ」は過去、とくに2027年の仮想世界を表しているようです。
先へ進む理由とは
映画の物語に寄り添った場合、「君」は瑠璃、「僕」は直実ですが、先生を重ねることも可能です。
同一人物でありながら、直実にとって先生が悪者になる場面もあります。
先生目線に立つと「理性を奪う」というのは重大な伏線です。
ぎりぎりネタバレにならない巧みな表現なので、解説は控えましょう。
アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」のシンジみたいな、いわゆるセカイ系の悩める主人公が「君」だけのためのヒーローへと成長します。
一般的には、助けを求める人を無視してまで突っ走る恋は危なっかしいものです。
しかし映画の場合、2027年の仮想世界「イエスタデイ」から脇目も振らず「遥か先」へ進まなければ、「君」を救うことはできません。
バンドの物語になぞらえると「ポップなラブソング路線に警鐘を鳴らす人がいても、かまわずヒットを狙いに行く」などの流れになります。
何かを犠牲にしても先へ進む理由は、それほど大切な存在がいるからでしょう。
意味深な結末
Official髭男dismのファンの皆さんは、音楽性や方向性に関する藤原聡さんの葛藤を受け止めつつ、「思うがままに進んでほしい」と応援していることでしょう。
映画を観た人は、直実と先生と瑠璃の3人ではなく、「2人だけの宇宙」と絶妙な表現になっているところに深く共感するはずです。
「ポケットの中」という閉鎖空間についても深読みしたくなりますね。
「未来の僕」であるはずの先生すら「知らない」のは、映画の結末です。
「技法」と「気性」で韻を踏みつつ、ネタバレを避けるため「意味深な表現」になっているところがOfficial髭男dismらしいでしょう。
結局「君」を救うことができたのか、それとも「風に飛ばされる」ようなラストが待ち受けていたのか、謎のままです。
タイトルの「イエスタデイ」も「アイラブユー」もひらがななのは、ビートルズや尾崎豊さんの王道のラブソングへの粋なオマージュかもしれませんね。
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さいごに
「イエスタデイ」のMVは、実際の湖にステージセットを組んで撮影されました。
ロケ地は福島県の猪苗代湖。
湖の水を汲み上げ、大雨として降らせるという過酷な撮影だったそうですが、門脇大輔ストリングスも加わり、幻想的な仕上がりになっています。
心の中に大雨が降るほどの葛藤を抱えていても、虹の先へと連れ出してくれるような爽快感を味わえるのではないでしょうか。