米津玄師さんの5thアルバム「STRAY SHEEP」（2020年8月）に収録されている「優しい人」の歌詞の意味を考察します。
優しい人 歌詞考察
私とあの子とあなたの関係性
気の毒に生まれて 汚されるあの子を
出典:優しい人 / 作詞・作曲:米津玄師
あなたは「綺麗だ」と言った
傍らで眺める私の瞳には
とても醜く映った
「優しい人」の登場人物は、語り手の「私」と「あの子」と「あなた」の3人です。
「私」にとって「あなた」は正面から向き合う対象で、「あの子」とは距離をとっていると考えられます。
「あの子」は「あなた」にとっては「綺麗な人」ですが、「私」にとっては「醜い人」とのこと。
主観的な印象は人それぞれ異なるとはいえ、まったく逆というのは珍しいかもしれません。
同じく「私」の主観によりますが、「あの子」は「気の毒～汚される」状況のようです。
抽象的な表現なのではっきりしたことはわかりませんが、おそらく具体的な表現をはばかられるような何かがあるのでしょう。
「私」自身は「あの子」を「汚す」行為はしていないけれども、誰かに「汚される」ところは黙って目撃していると推察されます。
つまり「私」と同じように「あの子」を「醜い」と感じる人が他にもいるはず。
その点を踏まえたうえで、「あなた」は「あの子」の美しさに着目しているのでしょう。
噎せ返る温室の 無邪気な気晴らしに
出典:優しい人 / 作詞・作曲:米津玄師
付け入られる か弱い子
持て余す幸せ 使い分ける道徳
憐れみをそっと隠した
「噎せ返る（むせかえる）温室」というのは「温室育ち（苦労知らず）の血気盛んな若者」といった意味でしょうか。
「汚す」行為が「いじめ」に該当するかどうかは明記されていませんが、「いじめる側」にとっては単なる「気晴らし」にすぎない可能性も考えられます。
「私」にとっては「醜い」、「あなた」にとっては「綺麗」な何かが「汚される」対象になりがちなのでしょう。
こうした現場の俯瞰的な立場にいる「私」は、「あの子」に同情しつつ、思いやり（憐れみ）を表に出さず、助けたりかばったりしなかったようです。
下手に関わると、今度は自分が「汚される」恐れがあると判断したのでしょう。
「幸せ」や「道徳」を天秤にかけ、見て見ぬふりをした様子が伝わってきます。
頭を撫でて ただ「いい子だ」って言って
出典:優しい人 / 作詞・作曲:米津玄師
あの子へ向けるその目で見つめて
おそらく「あの子」は「温室育ちの若者」の「気晴らし」の対象にされても、どうにか耐え抜いたのでしょう。
そこで「あなた」が「あの子」の「頭を撫でた」という流れのようです。
あるいは「気晴らし」を笑顔で受け止めるなど、「温室育ちの若者」にとって予想外な態度を示したため壮絶な「いじめ」には発展せず、その様子を「あなた」は「綺麗だ」と表現したのかもしれません。
詳細はわかりませんが、いずれにしても「あの子」と「あなた」のやり取りを見て、「私」も「あの子」のように「あなた」に接してもらいたいと思ったようです。
あなたみたいに優しく
出典:優しい人 / 作詞・作曲:米津玄師
生きられたならよかったな
1番のサビです。
曲名の「優しい人」は「あなた」のことでした。
「私」も「あなた」のように「あの子」を「綺麗だ」と感じるようになりたいという話でしょう。
問題は心が綺麗かどうか
周りには愛されず 笑われる姿を
出典:優しい人 / 作詞・作曲:米津玄師
窓越しに安心していた
ババ抜きであぶれて 取り残されるのが
私じゃなくてよかった
「笑う人」と「笑われる人」と「まわりの人」という構図で捉えると、「私」も「あなた」も「まわりの人」です。
その第三者になったとき、どのように思うかという内心が赤裸々に綴られています。
「好き、嫌い」という感情も主観的なものですが、できれば嫌われたくないと考える人が多いでしょう。
さらに「笑われる人、誰からも相手にされずに孤立する人」を見て、「安心」したり「私じゃなくて～」と思ったりする自分に対して、「私」は苛立っているのではないでしょうか。
強く叩いて 「悪い子だ」って叱って
出典:優しい人 / 作詞・作曲:米津玄師
あの子と違う私を治して
「あなた」にとって「あの子」が「いい子」なら、「私」は「悪い子」になるはずだと考えたのでしょう。
「あの子」は「心が綺麗」ですが、「私」は「心が醜い」と気がついたようです。
たしかに「笑う人」だけでなく、「まわりで他人事だと切り離す人、安心する人」も「あの子」のように「いい子」ではありません。
そこで「私」は「間違ったことをしたときは、きちんとあなたに叱られたい」と望んでいます。
そうされることによって内面的な美しさを感じられるようになったり、心からの思いやりを持てるようになったりするのかもしれません。
もしくは「いい、悪い」の判断はできるものの、まだ本音とはギャップがあり、自分で自分の感じ方、考え方、行動を変えるまでには至らないとも受け取れそうです。
優しくなりたい 正しくなりたい
出典:優しい人 / 作詞・作曲:米津玄師
綺麗になりたい あなたみたいに
1番のサビが繰り返された後に続くラストです。
「あなた」の「優しさ、正しさ、心の綺麗さ」を感じ取れるなら、「私」も変わることができるかもしれません。
同じように「汚す」側の「温室育ち」にも「あなた」の美しさが伝わるといいですね。
むしろ「あの子みたいになりたい」と誰もが願うほどの世の中に逆転すると、まわりで悩む人もいなくなるでしょう。
そのときはすべて「私」と「あなた」の関係性になっていて、孤立する「あの子」は存在しないのではないでしょうか。
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さいごに
「自分がされて嫌なことはしない」のが基本で、どうしても他人を攻撃してしまうときは心を失っていると自覚するべきでしょう。
外見の美しさのみに惑わされていると心が疲れ、他人を笑う側になりかねません。
この「優しい人」を聴いて、叱ってもらったつもりになり、「汚す人」も「まわりで悩まない人」も「まわりで悩む人」も、これから頭を撫でる側に回れるといいですね。
