椎名林檎さんの6thシングル「罪と罰」(2000年1月)の歌詞の意味を考察します。
2ndアルバム「勝訴ストリップ」(2000年3月)の7曲目。
椎名林檎さんが作詞・作曲・編曲、亀田誠治さんが編曲、ベース演奏した「罪と罰」の歌詞の意味をチェックしましょう。

罪と罰 歌詞考察
あたしが望むこととは?
頬を刺す 朝の山手通り
出典:罪と罰 / 作詞・作曲:椎名林檎
煙草の空き箱を捨てる
今日もまた 足の踏み場は無い
小部屋が孤独を甘やかす
「罪と罰」では、3ピーズバンドBLANKEY JET CITY(ブランキー・ジェット・シティ、1987年~2000年)のベンジーこと浅井健一さんがギター(Gretsch Tennessean / グレッチ テネシアン)と歯笛、東京事変の亀田誠治さんがベース(Fender Jazz Bass / フェンダー ジャズベース)を担当しています。
早くも「不穏な」雰囲気の漂うイントロを「突き刺す」かのように始まる、椎名林檎さんのハスキーボイスと巻き舌が印象的な1番のAメロ。
椎名林檎さんの私物で、故障が多いため廃車予定だったメルセデス・ベンツ・W114を刀で真っ二つに切るという演出のMVが話題になりましたが、おそらく「徹夜明けの朝に山手通りを車で走っている」状況でしょう。
「煙草を吸うために窓を開けると、冷たい風が頬を刺すように当たる」ことを「朝の山手通りが頬を刺す」と表現しているところが詩的です(2000年1月リリースなので、季節はおそらく冬)。
後に明らかになりますが、こぼれた涙が「頬」を伝っているため、なおさら「風に刺されるように頬が痛い」と考えられます。
涙を流すほど「心が引き裂かれる」ような思いと「山手通り(の風)に刺される頬(および車)」ということで、前述のMVの演出につながったのでしょう。
「煙草の空き箱などを車の中(小部屋)に捨てることを繰り返しているので、足の踏み場がないほど散らかっている」と考えられます。
「1人で車に乗っていると、どれほど涙を流しても、ごみを散らかすほど自暴自棄になっても、誰にも叱られない」様子が、まるで俳句のように「小部屋が~甘やかす」と端的に表現されているため、さまざまな想像がふくらむのではないでしょうか。
「不穏な悲鳴を愛さないで
出典:罪と罰 / 作詞・作曲:椎名林檎
未来等 見ないで
確信出来る 現在だけ 重ねて
あたしの名前をちゃんと呼んで
身体を触って 必要なのは是だけ 認めて」
1番のサビです。
失恋したのか、恋人と上手くいっていないのか、詳細は不明ですが、語り手の「あたし」が「愛しい貴方(あなた)」に求めることは「是(これ)だけ」だと主張しています。
歌物語の時間軸としてはこの1番のサビが最初で、「あなた」と口論になった「あたし」が「将来を悲観せず、現在(いま)ここにいる私と向き合ってほしい」と頼んでいるような印象です。
現実に存在する浮遊とは?
愛しているー独り泣き喚いて
出典:罪と罰 / 作詞・作曲:椎名林檎
夜道を弄れど虚しい
「あたし」が「あなた」に望むのは「ネガティブな声にとらわれない、未来ではなく現在に生きる、名前を呼ぶ、触れ合う」という本質的なことだけですが、どうやらケンカ別れのような状態になった模様です。
恋人と話し合いを重ねても丸く収まることはなく、そのまま「独り」で「夜道」をさまよっている様子が浮かび上がります。
「身体を触って」とお願いしたのに、冷めきった関係になっていて聞き入れられなかったのでしょうか。
「弄(まさぐ)る」のは「あなたの身体」ではなく「夜道」というところが「虚しい」ですね。
あるいは誰彼となく「愛している」と声をかけて、「夜の街を徘徊した」という意味かもしれません。
いずれにしても「あなた」には1番のサビの主張を受け止めてもらえず、「泣き喚(わめ)き」ながら帰路についているのでしょう。
これが1番のAメロで涙が「頬」を伝っていると推察できる根拠になります。
改札の安蛍光燈は
出典:罪と罰 / 作詞・作曲:椎名林檎
貴方の影すら落さない
もしかしたら1番のサビが「あなた」に投げかけた最後の言葉となって別れてしまい、その後「夜の街」をさまよったり、かつてはよく待ち合わせをした駅の「改札」に「貴方」の姿がないと途方に暮れたりする日々を送っているのかもしれません。
あるいは1番のサビも、失恋後に「あたし」が「独りで泣き喚いている言葉」の可能性もあります。
歪んだ 無常の遠き日も
出典:罪と罰 / 作詞・作曲:椎名林檎
セヴンスターの香り
味わう如く 季節を呼び起こす
あたしが望んだこと自体
矛盾を優に超えて
一番愛しい あなたの声迄
掠れさせて居たのだろう
2番のサビです。
「歪(ゆが)んだ~遠き日」は「正常ではなかった、移り行く過去の日」、「セヴンスター~味わう如く」は「煙草の香りを味わうように、煙のように」といったところでしょうか。
つまり「煙のように消えたはずの愚かな過去が、煙草を吸うことで、その季節の記憶を呼び覚ます」と解釈できそうです。
1番のサビの「あたしが望んだこと」が「あなた」を疲れさせ、別れる原因になったと反省していると考えられます。
「あなたの声迄(まで)掠(かす)れさせて居た」と歌う椎名林檎さんが「掠れ声」なのも音楽的におもしろいですね。
静寂を破るドイツ車とパトカー
出典:罪と罰 / 作詞・作曲:椎名林檎
サイレン 爆音
現実界 或る浮遊
浅井健一さんのギターソロに続くパートです。
この「ドイツ車」はMVのベンツや1番のAメロにつながります。
結局「交際中の愚かな日々(1番のサビ)」や「別れた後に夜道や改札をさまよう日々(2番のAメロ)」を回想している現在(1番のAメロ)という時間軸になるでしょう。
1番のサビが2回(うち1回は「未来等 見ないで」の部分なし)繰り返された後、浅井健一さんの歯笛交じりの1番のAメロが繰り返されます。
車でさまよいながら苦い過去を回想するのも「浮遊(ふゆう)」ですが、「パトカーのサイレン」や「車の爆音」のようなギター音こそ「現実に存在する浮遊」であると目が覚めたのではないでしょうか。

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さいごに
椎名林檎さんは3rdシングル「ここでキスして。」(1999年1月)の大ヒット後に急性化膿性炎症にかかって活動を休止した時期があり、「罪と罰」はその際の「病棟での日記」が元になっていて、「病気になったのは罰だと自分を責めている」そうです。
また、4thシングル「本能」(1999年10月)と対になっていて、自己顕示欲や嫉妬心などの本能を肯定する「本能」、罪として罰する「罪と罰」という位置付けになっています。 今回は失恋ソングとして解釈しましたが、実際は人間の本質について描かれているところが深いですね。