今回は2020年7月29日にリリースされた新コンセプトアルバム「盗作」の表題曲「盗作」の歌詞考察をしていきます。
「盗作」は、n-bunaさんが作詞と作曲を手掛けました。
では早速歌詞の考察を始めていきましょう!

盗作 歌詞考察
穴を埋めるもの
「音楽の切っ掛けは何だっけ。
出典:盗作 / 作詞・作曲:n-buna
父の持つレコードだったかな。
音を聞くことは気持ちが良い。
聞くだけなら努力もいらない。
歌詞の中の登場人物は主人公の「僕」です。
主人公は音楽愛好家であることが描写されています。
「音楽の切っ掛け」「父の持つレコード」「音を聞くことは気持ちが良い」など、主人公がリスナーであることはわかります。しかし、演奏家やクリエーターであるかどうかまではわかりません。
リスナーであることは特に「努力もいらない」訳で、主人公が気楽に音楽を楽しんでいる様子が伺えます。
前置きはいいから話そう。
ある時、思い付いたんだ。
この歌が僕の物になれば、この穴は埋まるだろうか。だから、僕は盗んだ」
出典:盗作 / 作詞・作曲:n-buna
ここでいきなり、思いつきで音楽を盗用したことに言及しています。
その理由は「この歌が僕の物になれば、この穴は埋まるだろうか。」とあります。
主人公はただのリスナーではなくクリエイターであることがわかります。しかし、既存の楽曲を盗用して音楽を作ったいわくありげなクリエーターです。
「この穴」とありますが、クリエーターとしての才能やセンスを指しているのでしょうか。
これが欠けているとクリエーターとしては致命的です。
「この歌」は恐らく主人公が好んで聴いている楽曲で、勿論優れた楽曲なのでしょう。
そして、主人公にはない才能やセンスが光っていると思われる「この歌」をこっそりと自分の物にしてしまいたいと思わせる何かがあるのでしょう。
盗作に対しての罪悪感を凌駕する程の完璧な音楽の出会いは、リスナーとしては幸せな事です。しかし、クリエーターの立場からだとかなり残酷な事だと言えます。
嗚呼、まだ足りない。全部足りない。
出典:盗作 / 作詞・作曲:n-buna
何一つも満たされない。
このまま一人じゃあ僕は生きられない。
もっと知りたい。愛を知りたい。
この心を満たすくらい美しいものを知りたい。
ここでは、クリエーターとしての才能が「足りない」こと、そしてそれにより精神的に満足いかないという焦りや不満が感じられます。
そして「もっと知りたい。」「愛を知りたい。」「美しいものを知りたい」とあり、主人公の欲求がストレートに提示されています。
ここの「美しいもの」とは恐らく主人公のように盗用などとは無縁の本物の芸術作品を指しているのかもしれません。
不満と妬み
「ある時に、街を流れる歌が僕の曲だってことに気が付いた。
売れたなんて当たり前さ。
名作を盗んだものだからさぁ!彼奴も馬鹿だ。こいつも馬鹿だ。
出典:盗作 / 作詞・作曲:n-buna
褒めちぎる奴等は皆馬鹿だ。
群がる烏合の衆、本当の価値なんてわからずに。
まぁ、それは僕も同じか」
ここでは、主人公が「名作」を盗用した楽曲がヒットしていることが描かれています。
そして、「彼奴」「こいつ」「褒めちぎる奴等」とリスナーである大衆を指して、「馬鹿だ。」と言い放っています。
しかし、その「馬鹿」な大衆の中には主人公も含まれていることが語られており、自虐的な側面が見られます。
嗚呼、何かが足りない。
出典:盗作 / 作詞・作曲:n-buna
これだけ盗んだのに少しも満たされない。
上面の言葉一つじゃ満たされない。
愛が知りたい。金が足りない。
この妬みを満たすくらい美しいものを知りたい。
主人公は盗用した楽曲がヒットし、周囲から嬉しい言葉をかけられたに違いありません。
しかし、それで主人公は満足できないでいます。
盗用した事実や「上っ面の言葉」などでは到底納得できないでいる主人公は、かなりの高みを目指しているのでしょう。
そして高みを目指してはいるものの到達できない状況にもがき、苦しんでいるに違いありません。
「愛が知りたい。」「金が足りない。」と不満をぶつける主人公。
また「この妬み」とあり、根底にあるものは本物の完璧な音楽に対しての嫉妬であるようです。
不満と嫉妬心でいっぱいの主人公はここでも再度「美しいものを知りたい」と語っています。
主人公には圧倒的に「美しいもの」=本物の芸術作品が欠如していると言えます。
主人公の生み出すものは盗用したまがい物です。さらにリスナーであるのに「努力」は必要ありません。
主人公には才能だけでなく努力も足りていないのが現状であり、それを自分でも把握している様です。
満たされたい
「音楽の切っ掛けが何なのか、
出典:盗作 / 作詞・作曲:n-buna
今じゃもう忘れちまったが欲じゃないことは覚えてる。
何か綺麗なものだったな。
主人公が最初に音楽に触れた時は現在の様な欲望は皆無だったようですが、時の経過により記憶にも残っていない様子です。
ただ「何か綺麗なもの」ということは憶えているようです。
「欲」とは無縁なものが「音楽の切っ掛け」だったのは確かなようで、とても純粋な気持ちで音楽と向かい合っていたのでしょう。
化けの皮なんていつか剥がれる。
出典:盗作 / 作詞・作曲:n-buna
見向きもされない夜が来る。
その時に見られる景色が心底楽しみで。
ここでは、「化けの皮」とあり、主人公の楽曲=「盗作」という現状が語られています。
いつかは盗用している事実が世間に明るみになり、誰からも相手にされなくなるだろうと想像しています。
しかし、そんな恐ろしい未来を「心底楽しみ」だと語っています。
主人公はマゾヒストなのかもしれませんが、主人公の心の闇や複雑性が垣間見られます。
そうだ。
何一つもなくなって、地位も愛も全部なくなって。
何もかも失った後に見える夜は本当に綺麗だろうから、
本当に、本当に綺麗だろうから、僕は盗んだ」
出典:盗作 / 作詞・作曲:n-buna
盗用がきっかけで「何もかも失った後」を想像し心待ちにしている主人公。
更に、全てを喪失した後の景色(「夜」)は「本当に綺麗だろう」と語り、その景色が見たいが故に盗用をやめない、と断言しています。
嗚呼、まだ足りない。もっと書きたい。
こんな詩じゃ満たされない。
君らの罵倒じゃあ僕は満たされない。
まだ知らない愛を書きたい。
この心を満たすくらい美しいものを知りたい。まだ足りない。まだ足りない。
出典:盗作 / 作詞・作曲:n-buna
まだ足りない。まだ足りない。
まだ足りない。僕は足りない。
ずっと足りないものがわからない。
まだ足りない。もっと知りたい。
この身体を溶かすくらい美しい夜を知りたい。
ラストでは「もっと書きたい。」「まだ知らない愛を書きたい。」「美しいものを知りたい。」と主人公の更なる欲求が提示されています。
そして音楽を作り出す為の能力、才能、努力など、自分に不足しているものが沢山あるのでしょう。
また「足りいないものがわからない」ともあり、主人公の苦悩が垣間見られます。
欲求だけでなく自分を責め立てるような「足りない」という言葉の連呼は、クリエイターとしての悲痛な心情の表れと言えるでしょう。
そして「美しい夜を知りたい。」というフレーズで締めくくられていますが、作品を作り出すことから解放され、純粋に、まるで音楽を初めて聴いた時の様な心情で、音楽と向き合いたいという主人公の願いが語られているようです。

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さいごに
本楽曲「盗作」は、音楽を生み出す苦しみが描かれているようですが、純粋に音楽を楽しむ歓びをも描いていると言えるでしょう。
「盗作」とまではいかなくとも、芸術作品というものは、名作のオマージュという形をとったり、部分的に似てしまったりするものかと思います。
音楽であれば、作曲者がこれまで聴いてきた全ての音楽の片鱗のようなものが作品に反映されてしまうものです。
他の作品から切り離された、全くのオリジナルな作品を作り出す事自体、至難の業と言えるでしょう。
そんなクリエーター目線の音楽に対する感情が剥き出しになった本楽曲「盗作」。
本楽曲を手掛けたヨルシカの今後の曲にも是非注目したいですね。