今回は2006年1月25日にリリースされたセカンドアルバム「大人(アダルト)」10曲目に収録されている「透明人間」の歌詞考察をしていきます。
「透明人間」は、ヴォーカルの椎名林檎さんが作詞、ベースの亀田誠治さんが作曲を手掛けました。
では早速歌詞の考察を始めていきましょう!

透明人間 歌詞考察
鮮やかな色々であること

歌詞の中の登場人物は主人公の「僕」と「あなた」の二人です。
「僕は透明人間さ」と冒頭からタイトル「透明人間」という言葉が出てきます。
現実には「透明人間」は架空の人物であることは自明のことではありますが、主人公は他者からは見えない存在だと言いたいのでしょう。
そして自分と同じような人にはその存在が見えるようです。
二行目に関しては、世間一般の人々がしている「噂」が飛び交う場所を描いています。昔ならば様々なゴシップや憶測が飛び交う場所と言えばテレビのワイドショーであったり週刊誌といったものでしょうが、現在ではTwitterなどのSNSが主流でしょう。
そういった場所ではまるで「息を吸い込」んで「止めた儘」の状態で、スルーするのが主人公の習性のようです。
そして誰しも「秘密」はあるもので、主人公も例外ではないようです。ここではプライバシーやプライベートで一般に公にしたくない大事なものを指しています。
こういったプライバシーもあっという間に「野晒し」状態になってしまい、それに関して世間には「笑わないで」欲しいと思っているのです。
そして「好きなひとやもの」には「鮮やかな色々」があるものだと言っています。これは「透明」に対して「鮮やかな色」があり可視化できるということと、世間一般に晒されるであろう多様なプライバシーが沢山あるものだ、ということを指していると思われます。
ここまで歌詞を見てくると、主人公の「僕」は有名人・著名人であることがわかりますし、ひょっとしたら椎名林檎さん自身のことを指しているとも言えるでしょう。
椎名さんや有名人を指していないにしても、何かのきっかけで世間から注目されて見られている人を「僕」に置き換えているという解釈も可能でしょう。
どちらにしても、自身のプライバシーが晒されることは如何に心が痛むことであるかが伝わってきます。

主人公は「あなた」に対しては「透き通る気持ち」で向き合いたいと願っています。
「染まる空の短い季節」とありますが、これは日が短くなり、あっという間に日が暮れてしまう晩秋や冬の季節のことでしょう。これらの季節は日が短く夕焼けが美しい時間も瞬く間に過ぎ「夕闇」が来てしまいます。
「闇」は暗くて怖いものですが、人の心の「闇」とも相まって、「透明」な心持ちで「真っ直ぐに」向き合っていけば「恐ろしくないよ」と語りかけています。
歌詞の中でタイトルの一部である「透明」や「透き通る」といった”無色”に対応するように「鮮やかな色々」「染まる空」「夕闇」と無色以外の”色”が出てくるのも特徴となっています。
また、歌詞の中において、二人の関係性は明確ではりません。
主人公が愛を注いでいる、好意を持っているのが「あなた」という存在であるには間違いありません。
また一方で、もう一人の自分が「あなた」であるとも言えそうです。
主人公が、客観的な目で自分を見ているようにも解釈できるのではと思います。
無色への憧れ

2番では「透明人間」でありたい、「もっと透けて居たい」と自分の願望が語られています。
1番の「噂」を広める世間一般の人々と対比させるように、「何かを悪いと云うのはとても難しい」「一つ一つこの手で触れて確かめたいんだ」とあります。
主人公は「鮮やかな色々」=人のプライバシー=噂を見聞きしたとしても、きちんと検証し見極めてから判断したい、という確固としたポリシーがあるようです。

1番サビでの「あなた」は「笑ったり飛んだり大きく驚いたり」しているのに対して、この2番サビでは「怒ったり泣いたり声すら失ったとき」とあります。
このように、どのような時にも主人公は「あなた」に対しては「透き通る気持ち」で接し、共有したいと願っています。
つまり主人公は常に「あなた」に対しては素直でありたい、と思っているのです。主人公にとって「あなた」は本当に大事でかけがえのない存在なのでしょう。
そして「もうじきに新しくなるよ」というラストに、季節も巡りそのうちに春になる、と空の色や季節を通して、状況もそのうちに良くなるという”希望”が見て取れます。
濁らないように

ここでは「濁り」という色が出てきます。
何故「濁りそうになった」かというと「恥ずかしくなったり病んだり咲いたり枯れたりした」からなのです。
人は生きているなかで、様々な経験をし、それに伴い様々な感情を抱き、常に心が無色透明で「透き通った」状態ではいられないものです。
また他者から嫌な思いをさせられて心が濁ってしまうこともあります。
どんな確固たるポリシーを持っていても、「透明」から「濁り」が混じってしまいそうになるものでしょう。
そして主人公は「今夜」夕暮れ時の空の「尊い模様」を見ています。それはつまり、空が暗くなってしまう前の貴重な美しい色を味わっている、ということです。
世間一般の「闇」のように暗い「色」ではなく、心が「透明」なままでいられるような、「濁り」をろ過してまた「透明」に戻してくれるような光景と向き合う様が描かれています。
そして「幸せに思える」「逢えるのを楽しみに」とあり、主人公の心持も晴れやかになったのが伝わるラストとなっています。

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さいごに
本楽曲「透明人間」のタイトルにはどのような意味やメッセージが込められているのでしょうか?
歌詞全体を見ていくと、「視覚」の頼りなさや危うさが浮き彫りになると同時に、真に美しいものを味わい希望を見出すことも可能である、ということが提示されているのがわかります。
そして自身は「鮮やかな色々」を纏っている存在であっても、常に「透明」な心で物事を見るニュートラルな存在になりたいという決意のようなものが感じられます。
また同時に、本楽曲タイトルである「透明人間」には、物事を自らの手で吟味し判断し、「透明」な心を保って欲しいという願いが込められているように思えます。
SNSなど匿名性故に目では見えない悪意ある世間に対する皮肉が見え隠れするものの、一環して大切な存在の「あなた」との幸福な世界や希望が漂う本楽曲「透明人間」。
本楽曲を手掛けた東京事変の今後の曲にも是非注目したいですね!