藤井風さん「特にない」の歌詞の意味を考察します。
1stアルバム「HELP EVER HURT NEVER」(2020年5月)の収録曲。
藤井風さんが作詞・作曲、Yaffleさんが編曲した「特にない」の歌詞の意味を紐解きましょう。

特にない 歌詞考察
特にない境地とは?
特にない
出典:特にない / 作詞・作曲:藤井風
望みなどない
わたし期待せずに歩く
「特にない」は、ループするウワモノとJ・ディラのディラビートのようなレイドバックするリズムが特徴的なローファイヒップホップ(チルホップ)ですが、打ち込みではなく、ピアノ、ウッドベース、ドラムの演奏と藤井風さんのマネージャーによるフィンガースナップ(指パッチン)が効いています。
ボーカルでは「望みなどないわたし、期待せずに~」の「わたし」のリズムが心地いいのではないでしょうか。
このようにサウンド重視の楽曲で、老子の「足るを知る」という考え方のように「現状に満足する」様子が淡々と描かれています。
「何かを望み、期待するから、手に入らない、期待外れという不満が生まれる」のであり、「すでに望みや期待どおりの状態である」と考えると感謝しかないはず。
そのような悟りの境地に達した心境が「特にない」と表現されています。
特にない
出典:特にない / 作詞・作曲:藤井風
願いなどない
わたし身を任してる
「願いがあるから、叶わないという葛藤が生まれる」ものかもしれません。
自分がするべき努力をしたうえで「おまかせ状態」でいることも心を豊かにする方法のひとつでしょう。
見返り
出典:特にない / 作詞・作曲:藤井風
求めるから
いつも傷付いて終わる
たとえば「愛する、愛される」といった「愛情」についても、「見返りを求めるから傷付く」といえるかもしれません。
片思いや失恋の場合は「自分がこれほど愛しているのに、どうして愛してくれないの?」という悩みです。
両思いのはずの交際中のカップルや夫婦でも、ケンカが絶えない原因は「見返りを求めているから」ではないでしょうか。
誰かのために何かをするにしても、何かをすること自体が自分の喜びとして完結していれば、ネガティブな感情を抱かずに済みそうです。
ご褒美
出典:特にない / 作詞・作曲:藤井風
欲しがるから
いつも腹が減ってる
「空腹を感じるのは欲張るから」という話です。
裏を返すと「すでにたくさん食べているので、満腹のはず」ともいえるでしょう。
「足るを知る」という「現状に満足する」精神は、ダイエットにも効果的なのかもしれません。
いずれにしても、これほどの「達観の境地」に至ることができればいいのにと「望み、期待し、願い、見返りを求め、ご褒美を欲しがる」時点で、「達観の境地」にはほど遠いことになってしまいます。
ひたすら「望まず、期待せず、願わず、見返りを求めず、ご褒美を欲しがらない」のはなかなか難しいことではないでしょうか。
My heart is saying I’m not caring no more
Somebody slap my ass and let me go
I used to dance but I’m losing my beat
And now I lost my feet
Somebody bring back to me
That love and just let me be(もう気にしないと心に決めた
出典:特にない / 作詞・作曲:藤井風
本当はヨリを戻したいけれど
昔はよく踊っていたのに リズムにのれなくなっている
今はもう動けない
あの恋を思い出す
そっとしておいて)
「Aメロ→Bメロ→サビ」や「1番→2番」といった、J-POP的な楽曲構成にはなっていませんが、どうにか当てはめるなら、1番のサビに該当する英語パートです。
日本語パートではあらゆる悩みから解放された心境が淡々と展開されていましたが、英語パートでは「過去の恋に未練がある」様子が描かれています。
直訳すると「わたしの心はもう気にしないと言っている。誰かがわたしの尻を叩いて、(元恋人のところへ)行かせようとする(けれど)」となるでしょう。
つまり日本語パートのような「達観した境地」に至っているのは「心」だけで、「わたし」のなかにいる「誰か=本心、自我、本能」は悩んでいるのでしょう。
「特にない」は全11曲のアルバム「HELP EVER HURT NEVER」の7曲目ですが、その直前の6曲目「調子のっちゃって」で「リズムにのり、踊っていた」ことを思い出しているのかもしれません。
「more、go」「beat、feet」「me、be」と文末すべてで韻を踏んでいるところも、「リズムにのっていた(言葉の響きを重視していた)思い出」といえるでしょうか。
「リズムにのる」と意訳しましたが、チルホップの要ともいえる「beat(ビート)」を軸に、「My heart→heart beat(心臓の鼓動)」や「slap my ass(尻を叩く)→beat(叩く)」と連想できる言葉遊びも散りばめられているようです。
人生は悩みと達観のループ?
特にない
出典:特にない / 作詞・作曲:藤井風
定めなどない
わたし 囚われず歩く
実際には英語パートがサビという雰囲気でもなく、すぐにこの日本語パートにつながっていますが、便宜上ここから2番としましょう。
そう考えた場合、1番の冒頭の「特にない」という曲名から始まる日本語パートにループするような印象を受けます。
「望み、期待、願い」などに加えて「定め」もないとのこと。
英語パートの悩みから解放されて、再び「達観の境地」に至ります。
特にない
出典:特にない / 作詞・作曲:藤井風
渇きなどない
わたし 満たされてる
最終的に「渇き」もなくなりました。
さらに間奏の後、ラストに1番のサビに該当する英語パートと2番に該当する日本語パートが繰り返されます。
チルホップの特徴ともいえるディラビートの揺らぎのように、悩みと達観のループ(繰り返し)になっているのが人生かもしれませんね。

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さいごに
メインストリームのJ-POPシーンで、別格ともいえる宇多田ヒカルさんに追随するほど、R&Bやネオソウル、チルホップなどの粋な音楽をしっかりヒットさせているところが藤井風さんの強みでしょう。
年相応の悩みも抱えているはずですが、常に「達観の境地」に至るよう心がけているところが素敵ですね。