サカナクション「多分、風。」の歌詞の意味を考察します。

多分、風。 歌詞考察
渚のアップビート
ほらショートヘアをなびかせたあの子
やけに気になりだした なぜか今アップビートの弾けた風で
出典:多分、風。 / 作詞・作曲:Ichiro Yamaguchi
口に入った砂
真木よう子さんが出演した資生堂の日焼け止めブランド「ANESSA(アネッサ)」のCMソング(2016年)「多分、風。」。
サカナクションらしい「夜」ではなく、日焼けを気にする「昼」がテーマになっています。
CMの真木よう子さんも、MVに出演している中国・重慶出身のモデルる鹿さんも、ロングヘアではない「ショートヘア」なので、「あの子」は2人のような女性をイメージしたくなるでしょう。
「風が吹いて、女性の短い髪がなびき、語り手の口に砂が入った」と描かれているような気もしますが、厳密には正解ではありません。
「短い髪をなびかせた」のはあくまでも「あの子」で、語り手が「あの子」のことを意識するようになったのは「なぜか?」という謎かけになっている印象です。
その後の「今、風が弾けて、口に砂が入った」という流れで、「誰の髪がなびき、誰の口に砂が入ったのか?」については、実はあいまいになっています。
「アップビート」は「上拍」という意味の音楽用語。
4拍子を「1と・2と・3と・4と」と数える場合、指揮者が指揮棒(タクト)を下げる「1・2・3・4」が「ダウンビート(下拍)」、指揮棒を上げる「と・と・と・と」が「アップビート(上拍)」です。
さらに「1と」は「強拍(表拍)」、「2と・4と」は「弱拍(裏拍)」、「3と」は「中強拍」。
こうした音楽用語を踏まえると、「強い、弱い」や「表、裏」ではなく、「上向きの(下から上に)弾けた風」と解釈するのが妥当でしょう。
ちなみに楽曲制作中、リリース前のライブで披露された際の仮タイトルは「渚のアップビート」でした。
誰もが忘れる畦道を
静かに舐めてく風走り知らないあの子と自転車で
出典:多分、風。 / 作詞・作曲:Ichiro Yamaguchi
すれ違ったその瞬間
「語り手が畦道を自転車で走っていると、知らない女性とすれ違った」という歌物語のようですが、果たして「あの子」は女性なのでしょうか。
「畦道(あぜみち)」と「風走り(かぜばしり)」で韻を踏んでいますが、もしかしたら「畦道」は「日焼け止め→汗」と連想した「汗(をかく昼の)道」で、それと韻を踏むために、「風を受けながら自転車で走ることを意味する造語」のような「風走り」としたのかもしれません。
また「畦道」は「畦(水田の境界に水が漏れないように土を盛った堤)の細い道」のことで、「誰もが忘れるノスタルジックな80年代の雰囲気を、静かに音楽でなぞる」と深読みするのも楽しいでしょう。
山口一郎さんは1980年生まれなので、80年代のAORやシティポップはリアルタイムではほとんど「知らない」はず。
90年代のR&B、ネオソウルがリバイバルブームになっている昨今、「誰もが忘れる、いなたい細い道」といえそうです。
それでも「80年代音楽がなぜか気になり、砂が口に入り(断片的に聴き)、すれ違った(サカナクションの楽曲に取り入れた)」のかもしれません。
風 走らせたあの子にやや熱い視線
焦らせたその仕草に風 走らせたあの子にやや熱い視線
焦らせたこの季節に連れて行かれたら
出典:多分、風。 / 作詞・作曲:Ichiro Yamaguchi
1番のサビです。
どうやら「汗→風→畦道」という流れだったようで、「走らせた、熱い視線、焦らせた、走らせた、行かれたら」と韻を踏みまくっています。
たしかに母音「あえ」の「風」が走りまくり、「汗」が飛び散っているような印象です。
この現象は1番冒頭の「なびかせた」から既に始まっていました。
「短い髪をなびかせ、風を走らせた、あの子」は、一般的なラブソングと捉えると女性のようですが、サカナクションにはラブソングがほとんどありません。
日焼け止めブランドのCMソングということで、「汗をかく夏(焦らせたこの季節)の砂浜の女性」も連想できるようになっていますが、実際に語り手が「熱い視線」を送っている「あの子」は「80年代音楽」など、人ではない可能性もありそうです。
「80年代音楽に連れて行かれたらどうなるのか?」という雰囲気も漂いつつ、「風をざわつかせ、男性を焦らせるような魅力的な女性に心を奪われたら……」とシティポップ風の歌詞として解釈することもできるでしょう。
絡み合った時間の衝撃
ほらショートヘアをなびかせたあの子
口に入りかけてた髪が今ダウンビートの静かな風と
出典:多分、風。 / 作詞・作曲:Ichiro Yamaguchi
絡み合った時間
1番の「上向きの弾けた風」と2番の「下向きの静かな風」、「口に入った砂」と「口に入りかけてた髪」、「すれ違ったその瞬間」と「絡み合った時間」が劇的に交ざり合います。
歌物語としては「あの子の髪が風と絡み合った」だけの展開ですが、「あの子は果たして女性なのか?」という疑問がつきまとっていて、「風と髪が絡み合うと何が起きるのか?」とハラハラさせられるのではないでしょうか。
男性と女性の視線が「絡み合った」ラブソングの「風」をまといながら、「自然と人間」や「瞬間と永遠」が溶け合うなど、SF的な「時空の超越」すら体感できそうな気がするところがサカナクションの醍醐味です。
畦 走らせたあの子は 多分 風
出典:多分、風。 / 作詞・作曲:Ichiro Yamaguchi
焦らせたあの仕草は 多分 風
結局「多分、風。」という曲名がオチだったことが明らかになります。
最初から最後まで語り手1人しかおらず、「砂が口に入ったのも、髪が口に入りかけたのも語り手」だったのでしょうか。
「風」を「あの子」と擬人化したのか、ただ「風」が吹いただけなのに「あの子(誰か)」がいるような気配がしたのか、それとも実際に「あの子(女性)」とすれ違って「風」のように姿が見えなくなった(遠ざかった)のか、「多分」のまま答えははっきりしません。
いずれにしても「畦、走らせた、風」と「焦らせた、風」の韻が心地いいでしょう
ラストに1番のサビが繰り返されます。
「不思議な自然現象」と「ノスタルジックな80年代音楽」の両方に「連れて行かれた」のではないでしょうか。

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さいごに
「日焼け止め→汗→風」と変換して言葉遊びを多用しつつ、タイアップ先の要件も満たし、なおかつ「時間」のひと言で時空を旅するSF感や壮大な宇宙観まで連想できるようになっているところがおもしろいでしょう。
全体的に「色即是空」的な儚い美学も感じられるではないでしょうか。