今回は2004年10月20日にリリースされたセカンドシングル「遭難」の歌詞考察をしていきます。
「遭難」は、ヴォーカルの椎名林檎さんが作詞・作曲を手掛けました。
では早速歌詞の考察を始めていきましょう!

遭難 歌詞考察
規定外の恋

まずは本楽曲タイトルの「遭難」の意味を確認してみましょう。
広辞苑によると”わざわいにあうこと。災難にであうこと。特に、登山・航海などの場合をいうことが多い”と定義されています。
ここの歌詞では「堕ちていく。」とありますので、飛行機事故に遭う様が思い浮かびますね。
また「遭難」というタイトルにちなんで、「積載」「距離」「着地点」など、「乗る物」に纏わる言葉がそこかしこに散りばめられています。
冒頭では「この花」とあります。そして「花」は「二人」の関係性を表すものとなっています。
「咲いて枯れるまで」は、「二人」の関係の”始まりから終わり”を指していると考えられます。
そんな「二人」には「乗る物も見当たらない」とあります。
それは、「二人」一緒に乗ることが出来ない、搭乗することを拒まれている、というものとも、逆に「二人」が乗るのに丁度良い乗り物がない状態であったり、「二人」が搭乗を拒んでいるとも解釈できます。
乗り物には「積載」量が規定されています。その「限度」を超えない様に積荷を積まなければいけません。またどの様な乗り物であれ、その乗り物同士の距離を保ち進んで行くものです。
しかし、次に「拒むのを許せよ」とあります。
乗り物に関する様々な規定を拒否するのを許容して欲しい、ということです。それはつまるところ、二人の関係性は”規定外”で、決まり事に縛られることを拒否し、許容して欲しいと願っている、ということになります。
上記を踏まえ、ここでの「乗る物」とは世間一般の常識、と解釈可能かと思います。
規定を無視すれば事故が発生してしまうものです。
飛行機が規定を遵守しなかったがために、墜落し不時着してしまいレーダーからも消えてしまう様に、「二人」は世間一般の常識に従うことなく関係を持ってしまいます。
「遂に壊して」というのは、常識を逸脱した、ということでしょう。更に「認識困難」とあり、度を超す、我を忘れるといった状況に陥っていると解釈できそうです。
「二人」は不倫などの道ならぬ恋に文字通り「堕ちていく」只中にあるようですね。
危うい関係性

「開花する」「種を増やして」「育っていく」など、「花」に纏わる言葉がここでも見受けられます。
世間一般の常識からかけ離れた「二人」は、言葉で「傷付け合い」、更に道ならぬ恋を重ねてしまいます。
「如何(どう)にでもなりそうな事態」に発展しそうな危うい関係性の二人。
「二人」はこの恋を進めて行き”行き着く結末”がどの様なものになるか、理解しているのですが、それでもなお「お互い愛しいと感じている」という状況です。
ここに「非常線」とありますが、広辞苑によると”重大犯罪・火災などが発生したとき、犯人逮捕や警備のために、土地の区域を限定して行う警戒。また、その区域を囲む線”と定義されています。
「二人」の恋の結末にお互い気付いてはいるものの「愛しい」と想い合っている危険な状況を「非常線」という言葉で表していると言えますが、この後「救助して。」と助けを求めています。
自力でその危うい関係性から抜け出すことは出来ず、他者から何とかして欲しいと思っているようです。それだけ、「二人」はこの恋にどっぷりと嵌まってしまって容易に抜け出せない、ということなのでしょうね。
より背徳的により深く

ここでもまた「距離」という言葉が出てきます。
乗り物の運転のように一定の「距離」を保つということはなく、互いの「手」を取り合っているようです。
「手」を伸ばせば「届く距離」に相手の「手」はあり、その「手」を「掴むのを」選択しています。そして、その行為は背徳的であるという自覚がある故に「赦せよ」とあるのです。
ここでは、「冬」「冷えた手」「水面」「溺れる。」と”冷たい水”が連想されるような言葉が連なっています。
まさに、飛行機が遭難して冬の海に不時着してしまい、乗客が冷たい海中へと沈んでいくようなイメージが浮かび上がりますね。
「一層壊して」とありますので、更に常識を打ち壊しています。そして、「水面」は「遥か頭上へ」あるので、より深い所へと「二人」は沈み恋に「溺れて」いる様が伝わってきます。
事故のような出遭い

ここでは冒頭に「振り向きもせず慈しみ合う」とありますが、「二人」は過去を顧みることはなく、又は、周りを気にすることはなく、ただ前だけを見て愛し合うという状態にあります。
そのこと「自体」「危ない」ことだと理解しています。それでもなお、「黙っている」、つまり危険極まりないことをしているにも関わらず見て見ぬふりをしている、という訳です。
更に、「答に気付いても」「お互い微笑み合う」とたたみ掛けられ、後先を考えず「昼間」に危険な恋をただ愉しんでいる様子が伺えます。
そして、「真実等に興味は無い」とあり、お互いが抱えている事情(相手が他にいる等)はどうでも良い事であって、目の前にある危うい恋だけにのめり込んでいる様子です。
ここで読み方や意味が分かり辛い漢字の言葉が二つ出てきますので見てみましょう。
ひとつは、「果敢ない」です。読み方は”はかない”で、意味は広辞苑によると”とりとめがない””手ごたえがない””物事の度合などがわずかである””あっけない”などと定義されています。
そしてもうひとつは、「然様なら」です。読み方は”さようなら”で、別れの挨拶の言葉であるのは一目瞭然ですね。元々は「それならば」という意味があるようです。
更に、「赤いネイル」「真っ白」と色の対比が見られます。
こういった言葉のチョイスは椎名林檎さんならでは、といった感じがありますね。
また「下品」という言葉ですが、広辞苑によると”品の悪いこと”という意味以外に、”劣った品物”という意味もあるようです。
これを踏まえて歌詞を深読みするならば、「下品な芝居で定刻」の件(くだり)は、下手なお芝居をして昼間の情事を時間がきたので終わらせる、といった風に解釈可能かとも思います。
そして、自分の相手への想いが、さほど深く大きなものではないことを隠すのです。
最初は「如何にかなるかも知れない」とありますが、次には「如何にかなる途中の自分が疎ましい」と変化しています。
ちなみに、「疎ましい」とは広辞苑によると、”遠ざけたい。いとわしい。いやらしい””気味がわるい”などと定義されています。
つまり、”禁断の恋に夢中で狂ってしまいそうになるかも知れない”という心情から、”恋に夢中で狂ってしまいそうになる手前の自分が嫌だ”というものへと変わっています。
「二人」で恋に夢中になっている間はなんということもないのでしょうが、やはり関係性が危ういということもあり、そこに至るまで心の揺らぎを認識しているのでしょう。そのような自分に対して嫌悪感を露わにしているようです。
束の間の昼間の逢瀬が終わり、「二人」は別れるのですが、危うい恋に夢中になってしまった二人の言い訳は「出遭ってしまったんだ。」という共通の「答」なのです。

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さいごに
本楽曲「遭難」は思いがけない飛行機事故の様子と、まるで事故に遭ってしまったかのように出会った「二人」の関係が絶妙にリンクした秀逸な歌詞の世界が繰り広げられています。
恋はするものではなく、「おちてしまう」ものだと良く言われますが、まさにこの歌詞の「二人」は、その危険で背徳的な恋故に「堕ちて」「溺れ」「出遭う」という言葉(漢字)が嵌まっています。
禁断の恋に偶然に陥って深みに嵌まり込んでしまう男女を事細やかに描いた「遭難」。
本楽曲を手掛けた東京事変の今後の楽曲にも是非注目したいですね!