今回は2016年5月11日にリリースされたシングル「時代をあつめて」の4曲目に収録された「卒業」の歌詞考察をしていきます。
「卒業」はヴォーカル・ギターの椎木知仁さんが作詞作曲を手掛けました。
では早速歌詞の考察を始めていきましょう!

卒業 歌詞考察
愚痴モードの僕のモノローグ

歌詞の中の登場人物は主人公の「僕」と恋人の「君」の二人です。
冒頭での舞台は渋谷。MVでは渋谷駅前のスクランブル交差点が映し出されています。いつ訪れても人混みで賑わいのあるこの街に、「僕」と「君」の二人は来ています。
そんな渋谷の街では恋人と「二人きり」になるのは困難です。
また、主人公はあまり「素直」な性格ではなく、「手を繋ぎたい」と思っても繋げないでいます。ひょっとしたら人前で手を繋ぐこと自体”恥ずかしい”のかもしれません。
帰宅するのに渋谷駅から電車に乗っても満員で窮屈です。
ここでは主人公の愚痴モードのモノローグから始まりますが、電車を降りる時に彼女と目が合い漸く「手を繋ぎたい」というささやかな希望を叶えます。

更に主人公「僕」の「君」に対するモノローグが続きます。
「僕」が「君」に出来ることは「腕枕くらい」で他には特に取り柄もないようです。
そして「君」の為に「無理」をしたり「格好つけた」りしてみますが、そんな「僕」の努力をしている姿に「君」は滅多に気付くことはありません。
「君」は少々鈍感なのかもしれませんが、わざと気付かない振りをしている訳ではありません。
それに対して、「僕」は「余裕がない」状態です。
そして「僕」は「君」を理解しようと思っていますが、「君」が「僕」を理解しようと努力している様子はないようです。
二人の関係はどことなく”ちぐはぐ”で、「僕」は「君」に少々不満を持っているような印象を受けます。

ここでは、二人が住んでいる場所が冒頭で描かれています。
東急電鉄の田園都市線沿線に二人は住んでいるようです。「川沿いの街」ですから多摩川近くに住まいはあるのでしょう。
そして「僕」は「君」との関係性に触れています。
「冬になれば」付き合って一年となる二人ですが、愛し合っても「身勝手」で、自分は「君」にとってはどんな存在なのかと問わずにはいられない有様です。
「君」は「僕」にとってもよくわからない存在の様で、二人の関係の危うさが見て取れます。

そして、「僕」が出した結論は恋人でいるのはやめて「友達」の関係に戻るということです。
「さよならは言わない」とありますので、きっぱり関係を絶つ訳ではありません。
恋人からただの友達に戻るのは中々難しいものですし、友達からまた恋人に戻ることもありえます。
主人公の出した答えは曖昧な感じがします。
君の独り言のような語り

ここからは、「君」の独り言の様な語りかけとなっています。
実際に「僕」に向かって言葉を繰り出しているのか、モノローグなのかハッキリしない感じです。
ここでの冒頭、「別れて」とありますので、二人はあれから恋人ではなくなったということが見て取れます。
恋人でなくなってから漸く一人でいることが寂しいことに気付きます。
一旦はネイルの色を変えてみたものの、付き合っていた頃していた「真っ赤」な色に戻します。
挨拶をしたり、愚痴を聞いてくれたりする相手も不在です。
よく一緒に外食をしていたのでしょうか。「美味しいお店」を見つけたことを報告します。
そして、ここで「独り言みたいだ」とありますので、「僕」に向かって「君」が思っていることを一方的に喋っていたと解釈出来るでしょう。
喋っていた内容は脈略もなく取り留めもないものです。近況と「僕」の不在に対する愚痴を一方的に相手にぶつけている印象です。
「僕」は「君のなんだった」のか、と疑問に思っていましたが、ここでの「君」の喋っている内容を見ると、「僕」はただ単に”寂しさを紛らわせてくれる人”にすぎなかったのではないか、と思わざるを得ません。

ここでも「君」の独り言の様な語りかけは続きます。
これまで二人だった部屋には「君」一人で、洗濯物も「君」のものだけですし、テレビのバラエティ番組を見て一緒に笑う人もいません。
「僕」との思い出は楽しかった時だけでなく「悲しかった時のこと」も「忘れたくない」と言っています。
ただただ、「君」は一人でいるのが堪らなく嫌な寂しがり屋なのです。

ここで「君」は、「僕」の出した結論の逆の事を提示しています。
「僕」は恋人から友達に戻ることを、「君」は友達から恋人に戻ることを望んでいます。
前述の「僕」のモノローグと上手く対比している箇所です。
僕が導いた答え

ここで「僕」は「俺」に変わっています。何か変化のある予兆のようにも感じられます。
別れても次の相手なら「いくらでもいる」と「君」だけでなく「僕」が自分に対しても諭すように語りかけます。
そして次に「俺」の心情が吐露されます。
「俺」に対する気遣いがあまりない、わがままで自分勝手な面がある「君の心」が嫌であること。そんな「君」にいつも「心が痛かった」主人公。
そんな関係性を持ちながらも「君が好きだった」と言っています。
主人公の複雑な心情が垣間見られますし、主人公にとってこの恋愛はシンプルなものではなかった様です。

主人公はこの先、交際中に辛い目に遭っても別れが来ることがわかっていても、恋愛を続けるだろうと語っています。
「君」に別れ話をする時、別れの言葉の代わりに「ありがとう」と言う主人公。
そして、わがままで無邪気な、まるで子供の様な関係性の二人でいることを主人公は否定します。
しかし、「大人ってなんだ」と問いかけます。
子供のままではいられないけれど、大人にもなりきれてない二人の複雑性が提示されています。

ここで冒頭と同じく舞台は渋谷になります。
既に二人は別れ、主人公は一人駅前の雑踏にいます。
渋谷の街は相変わらず賑わいを見せていて、静かに一人きりでいることも困難です。
恋人たちが人目を憚らず抱擁する姿を目にして「もう春みたい」と形容しています。温かい春がもうじき来るであろう冬と春の境目のような時期なのでしょう。
暦の上では春ですが、まだ寒い日と温かい日が繰り返される卒業式シーズンなのかもしれません。
学生たちが学校を巣立って行く様に、二人も一緒にいること、つまり恋人でいることも友達でいることも選択せず、お互いに依存しあうことなく”お互いから卒業”し、一人になったのです。

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さいごに
本楽曲「卒業」において、主人公と「君」の関係性を通して、恋人や友達からの「卒業」、そして、子供と大人の境目の未熟で曖昧な精神性からの「卒業」が描かれています。
お互いに依存しあう関係はとても楽ですが、そんなぬるま湯状態から脱却するには勇気やエネルギーが必要です。
「卒業」は二人の共依存からの脱却、そして精神的に成熟した大人への成長と解釈できると思います。
言葉選びや配置の秀逸さが随所に見られる本楽曲「卒業」。
作詞作曲を手掛けた椎木さん率いるMy Hair is Badの今後の曲にも是非注目したいですね!