今回はRADWIMPSの「新世界」の歌詞を解釈していきます。
「新世界は」新型コロナウイルスが猛威を振るっている真っ只中に書き下ろされた楽曲。
自粛ムードが漂う中、ミュージックステーションに出演依頼をされたのを受けて発表した楽曲としても大きな話題になりました。
「新世界」とは「コロナウイルス」が終息した後の世界を示す言葉だそう。
もはや今までの日常に戻ることはなく、新しい世界へと向かわざるを得ない人間模様を描いた深い楽曲になっています。
さて、どんな歌詞なのか読み込んでいきましょう。

新世界 歌詞考察
当たり前はもう戻ってこない

感染者が増え続ける毎日。
「きっと乗り越えられる」という言葉もどこか形骸化し始めています。
いつ今の状況が改善するのか、誰一人知らない辛く苦しい今の時代が描かれています。
私たちは、コロナウイルスがやって来る以前の世界に戻りたいと願っていますが、「もうここまで来ては昔に戻れない」という諦めが見え隠れている歌詞です。
終息の先に待っているのこそ「新世界」なのです。

「きっと同じ世界にはもう戻らない」という断言が強く印象に残ります。
戻ろうとしている世界はもう存在せずに、私たちは新世界に足を踏み入れるしかもうなす術がありません。
今まで通りになると信じる上っ面の励まし言葉はもう通用しないのでしょう。
それは、自分たちの責任や行動を振り返って来なかった人間の代償であるかのような強い言葉が胸を貫きます。
原因はどこにあるのか?


反復する言葉がさらに歌詞を印象強くさせていきます。
「泣いて」と「凪いで」(ないで)、似たような言葉ですが、「泣く」のは波が立ち激しい様子である一方、「凪ぐ」は水面が静かになることを指し、つまりは反対の意味を指します。
私たちは騒ぎながらも、日常が凪ぐようにここしばらくずっと願っていました。
しかし、その願いを叶えたいと思う一方で、誰かを責めたり、現実を見ないような身勝手な行動も目立ちます。
でもそれは、コロナウイルスが蔓延している現状についてだけではないような気もします。
自分の都合のいい部分だけ見るようにして、本当の原因には目を背ける。
そんな悲しい人間存在を皮肉に歌っているようにも感じられます。

今までの日常に戻ることを願いますが、それはもう戻ってこないように思えます。
当然と思ってきた衣食住すら危ぶまれ、ビルから光も消える。
コロナウイルス感染に対しての差別的な発言、善良な医療従事者への社会的な誹謗中傷。
コロナウイルスが蔓延したことにより、人間の醜い部分が露呈されたのも事実です。
私たち人間がコロナウイルスによって、もう一つの異なった悪を生み出しているのは自明でしょう。
そこで、前の日常に戻るのではなく、コロナウイルスを含めいっそ全て「0からやり直そう」と歌っているのだと思います。

完璧な人間などいません。
多くを学び、他者とかかわって切磋琢磨するのが「生きる目的」ならば、私たちは生まれた時から「キズだらけ」でしょう。
だから人間に優劣などなく、みな平等に磨かれるべき存在です。
それなのに私たちは優れるどころか、他者を傷つけ、自分が優れて相手が劣っていると決めつけます。
そんな醜い人間を見て、神様はどう思っているのか?そんな問いが感じられます。
「カタストロフィ」とはギリシャ語で「悲劇的な結末」という意味。
「神」「ギリシャ語」というところからも、人間が誕生してから何千年と経っている歴史の長さを彷彿させます。
どれだけ時間が経っていてもほとんど変わらない人間の悲劇を、皮肉な気持ちを込めて形容している歌詞ではないでしょうか。
それでも越えていきたいから

ここまで痛切に現状を叩いてきた歌詞ですが、くるりと翻り、前向きな歌詞へと変化していく予感です。
「僕と君なら きっと越えて行けるさ」という一つの強い願いが姿を表します。
人間はこんなにも惨劇を生み出す存在だから、もしかしたら、それは叶わないかもしれません。
でもその願いは、結末がどうであれ、そう願う当事者にとっては空想の中で現実であっていもいいのです。
これを「夢」や「嘘」に比喩するRADWIMPSの表現技巧は非常に匠みではないでしょうか?
ここで「君と越えて行きたい」という言葉が登場し、仄かな希望が垣間見れます。
歪む現実の中でも希望を肯定したい

ここまで人間や世界の惨状を歌ってきましたが、それをふと傍らに置いて、「淀みきった真実なんて欲しくないでしょ」とRADWIMPSに微笑まれたような気持ちがしてなりません。
確かにコロナウイルスで蔓延する世の中に生きる人間の醜い姿、さらには、人間そのものが昔から持っている頑なで、人を傷つける性には辟易します。
でも、もう一方で「あの人に会いたい」「誰かを守りたい」という真っ直ぐで純粋なこころも人間にあるはず。
そんな脆弱で無垢で真っ直ぐな気持ちを持つ視聴者に対し、「ごめんごめん」と言わんばかりの笑顔を見せるRADWIMPS。
なぜ、急に折れるような態度をとるのでしょうか。
それはRADWIMPS自身も、そんな素晴らしい人間の側面を知り、肯定しているからです。
そして、汚い世の中を無垢に走り続ける人々に「そのままでいて欲しい」という願いを最後に打ち出すことによって、人間そのものを賛美していることを示したかったのだと思います。
RADWIMPSこそが、明日から世界が変わることを信じているのです。
この世界で「君」と生きていくのは様々な面で非常に困難も伴います。
しかし、そんな危うく揺れる世界でも、誰かと生きたいと願うその気持ちさえあれば、新世界にも微々たる光が指し始めることを予感できるラストです。

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おわりに
RADWIMPSの「新世界」、人間の儚さ強さの両方を緻密に描いた楽曲だと思います。
きれいな部分だけではなく、汚い部分もしっかり見ている。
そんなしなやかな強さが息づているRADWIMPSの楽曲。
人間の「しょうがなさ」すら愛しているRADWIMPSに、いつも心が救われます。