King Gnu（キングヌー）「あなたは蜃気楼」の歌詞の意味を考察します。
あなたは蜃気楼 歌詞考察
変わり身の早い女性の物語？
ひらりと
翻したの
風の吹くまま思惑、
出典:あなたは蜃気楼 / 作詞・作曲:常田大希
するり逃れて
ニヒルに駆ける
常田大希さんがメインボーカルを務める「あなたは蜃気楼（しんきろう）」。
「ひ・・・らりと」や「お・・・もわく」といったメロディーのリズムがおもしろく、King Gnuの楽曲のなかでは歌謡曲（J-POP）色が強い異色作という位置付けです。
昭和歌謡曲風の「あなたは蜃気楼」という曲名がつけられていて、J-POPらしいラブソングとして解釈すると、「語り手の男性が、蜃気楼のようにとらえどころのない女性に振り回される」様子が描かれていると考えられます。
冒頭のパートから目に浮かぶのは、「男性の元に思わせぶりに（思惑）近づいてきた女性が、スカートやコートなどの裾（すそ）を翻（ひるがえ）し、冷めた表情で（ニヒルに）走って逃げる」情景です。
気のある素振りで近寄ってきたのに、こちらがその気になると、一転して冷たい態度でかわす思わせぶりな女性の物語なのでしょうか。
キラリと
出典:あなたは蜃気楼 / 作詞・作曲:常田大希
こぼれ落ちた
涙と思い出を
さっと拭って見せた
あなたが蜃気楼に見えたの
「キ・・・ラリと」（冒頭の「ひらりと」と韻を踏んでいる）や「さ・・・ぬぐって」でもおもしろいリズムが続いています。
冒頭では「男性の恋心をもてあそぶかのように、態度を翻す女性」なのかと思われましたが、このパートでは「女性自身の表情や感情が翻っている」ことが伝わってくるでしょう。
女性は過去に何らかの悲しい出来事を体験しつつ、涙を流しながらも吹っ切ったようです。
たとえば「失恋して落ち込んでいたけれども立ち直った」といった状況が考えられます。
悲しい出来事の詳細は明かされていませんが、いずれにしても「語り手の男性には、過去を振り切った女性が、蜃気楼のように見えた」という話です。
もしかしたら「思わせぶりに近づいてきたと思ったら女性は急に泣き出し、何事かと思ったら失恋した元カレへの未練を語り出し、なぐさめようかと思ったら涙を拭って立ち直った」のかもしれません。
詳細は想像するしかありませんが、「女性の変わり身の早さに翻弄される男性」の姿が目に浮かびます。
“あなたは蜃気楼”
無邪気に笑ってみせて“あなたは蜃気楼”
出典:あなたは蜃気楼 / 作詞・作曲:常田大希
僕を振り回して
曲名の「あなたは蜃気楼」を井口理さん、「無邪気に～」と「僕を～」を常田大希さんが歌う、1番のサビです。
「泣いたと思ったらすぐに笑う」とか、「自分に気のある素振りをしたかと思いきや、急に塩対応になる」など、「表情、感情、態度がころころ変わるところがとらえどころのない蜃気楼のようだ」という話でしょう。
語り手の「僕」は変わり身の早い「あなた」のことを嫌がっているわけではなく、むしろ「その調子で！」とはやし立てているような雰囲気も漂っています。
ただ、蜃気楼は「実体のない様子」を象徴していると考えられるので、「翻す（ころころ変わる）」という要素も含めて、何らかの仕かけが残されているのではないでしょうか。
錯覚が仕かけられていた
“鏡の前のお前は一体誰？
最早その顔、別人だぜ
無駄な荷物を捨て去って
過去、嘲笑って
生きることは大変で
歩いてりゃ誰か失って
それでも誰かのため生きたいって
(偽善か？)
視線は関係ないぜ
わかったように見えてる
世界は錯覚だらけ”あなたが蜃気楼に見えたの
出典:あなたは蜃気楼 / 作詞・作曲:常田大希
2番に入り、「鏡」や「お前は一体誰？」、「別人」や「視線は関係ない」、あるいは「錯覚」といった衝撃の展開が待ち受けていました。
つまり「僕（男性）とあなた（女性）の恋物語」と思わされていたのは「錯覚」で、「僕（あなた、お前）が鏡に映った自分（あなた）と自問自答する物語」だったのです。
しかも”かっこ”に入った「あなたは蜃気楼」や「鏡の前の～錯覚だらけ」は、鏡に映った自分が語る設定になっています。
歌物語の意味的には「過去を捨て去り、変わりながら生きている自分は、まるで別人のようになっている。それでも誰かのために生きたいなら、他人が自分をどのように見ようが、視線を気にする必要はない。世の中は勘違いだらけだから」といったニュアンスでしょう。
さらに、これまで女性だと「錯覚」させられていた「あなた」は実体がない（存在しない）「蜃気楼」かつ「別人」の「鏡に映った僕自身」で、「（歌物語の）視点（目線）は関係ない」という歌詞に仕かけられたトリックも明かされました。
「翻す（ころころ変わる）」自分自身にとまどいながらも、「自己判断で進んできた結果だから、誰にどう思われようが気にする必要はない」と自分に言い聞かせているのかもしれません。
“あなたは蜃気楼”
心の内なんて
わかりゃしないって“あなたは蜃気楼”
出典:あなたは蜃気楼 / 作詞・作曲:常田大希
後戻りなんて
もう無理だって
1番のサビが繰り返された後に続く、ラスサビです。
「現在の自分」からすると「過去の自分」はすでに存在せず、「過去の自分」からすると「現在の自分」の変わり果てた姿には「本来の自分らしさ」がなくなっていると解釈することもできるかもしれません。
あるいは「誰にも他人の心の内はわからない」ので、「あなた」という他人は「蜃気楼」のような幻にすぎず、自分しか存在しない（実体として認識できない）という哲学的な話に膨らませることもできそうです。
「たとえ自分らしさを失うほど変わろうとも突き進むしかない」という決意が感じられる、J-POPとUKロックバンドのゴリラズが混ざったような不思議な楽曲でした。
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さいごに
MVの撮影場所、東京・渋谷の第8矢澤ビル5～6階にあったLOUNGE NEO（ラウンジネオ）が2020年5月31日に閉店してしまったのも「あなたは蜃気楼」的といえるかもしれません。
さて、常田大希さんがPERIMETRON（ペリメトロン）のYouTubeチャンネルに最初にアップした動画はSrv.Vinci（サーバ・ヴィンチ）の「ABUKU」でした。
まだJ-POPを意識していない頃で、現代音楽のようなサウンドが本来の常田大希さんらしさともいえるでしょう。
たしかに別人のように変化していますが、King Gnuが「ヌーの大群の王様」になった暁には、またさらなる変化があるかもしれませんね。
