ヨルシカ「春ひさぎ」(2020年6月)の歌詞の意味を考察します。
メジャー2nd(通算3rd)アルバム「盗作」(2020年7月)の収録曲。
n-bunaさんが作詞・作曲・編曲・プロデュースした「春ひさぎ」の歌詞をチェックしましょう。

春ひさぎ 歌詞考察!
春ひさぎとは音楽の安売り?

「ひさぐ」は「売る」という意味なので、タイトルは「春を売ること」つまり「売春」ですが、実際には「商売としての音楽」の隠喩として使われています。
語り手は娼婦のようですが、実体は「音を盗む泥棒」という設定で、大衆寄りのわかりやすいポップミュージックを作って安売りすることを「春ひさぎ」と呼び、悲しんでいます。
生活と引き換えにプライドを犠牲にして「春ひさぎ」を続けているため具合が悪くなり、まわりの人に心配されたようです。

思い人と待ち合わせをして、すっぽかされたのでしょうか。
あるいはなかなか客がつかない娼婦の雰囲気も漂います。
こうした「不誠実」な行為(愛のない行為、売春、音楽の安売り)にも何らかの「価値」があると誰かに諭してもらいたい気分なのでしょう。

「言勿れ」(ことなかれ)は「言う勿れ」(いうなかれ)で、「言ってはいけない、言うな」。
「おくんなまし」は遊郭が栄えた江戸時代の遊女の言葉遣い、廓詞(くるわことば)、花魁言葉で「~してください」という意味です。
「左様な」(さような)は「そのような」、「蜻蛉」(かげろう)はトンボの古名で、種類にもよりますが、成虫の寿命が約1~2か月と短いので儚いものの比喩に使われます。
「詮の無い」(せんのない)とは「報いがない、甲斐がない、仕方がない、無益である」。
つまり「愛などと言わず、忘れてください。苦しみも何もかも教えてほしい。愛のような儚いものがいいなら、忘れたほうがマシ。仕方がない話ばかり聞いていられないし、言いたくない」ということ。
要は「愛のような儚いものを求めても仕方がない」という嘆きですね。
陽炎は何のメタファー?

「憂い」(うれい)とは「嘆き悲しみ、憂鬱」のことです。
「言葉を吐く」という意味合いで受け答えしていますが、実際に吐き、まわりの人に心配されている状況でしょう。
「音を盗む泥棒」になぞらえると、1番で大衆が好みやすいラブソングにも受け取れる内容を展開したので、2番でさらに気分が悪くなったと考えられます。
音楽家としては、ヒットしやすいからといって男女の恋愛を下世話に綴っても仕方がないと思いつつ、人間愛や音楽愛など大きな意味での「愛」を表現するなら、どれほど「言葉」を重ねても語り尽くせないという憂鬱な気分に陥っているのではないでしょうか。

「玄関」とは遊郭の入り口わき、道路沿いで遊女が客を待つ部屋、張見世(はりみせ)のことでしょうか。
「囁く」(ささやく)のも「喘ぐ」(あえぐ、息を切らす)のも客の気を引くため。
「悔」(かい)は「悔やむ、悔しく思う、残念に思う」という意味です。
艶っぽい歌い方を技術的に混ぜると心地よく響くものですが、発する側も受け取る側も艶っぽさのみに照準を合わせると、もはや音楽とは別次元の話になってしまいます。
もしかしたらこの辺りにも何らかの悔しい思いがあるのかもしれません。

「陽炎」は「炎のように光や影が揺らめいて見える現象」のことで、「蜉蝣」と同じく、儚いものの喩えに用いられます。
ここでは客を表しているでしょう。
「駅前」でも「玄関」でも「待ち惚け」を食らったものの、「喘いだ」ことによって客がついたのかもしれません。
ただし遊女と客で心を通わせ合っても、「悲しい」結末になることのほうが多いもの。
その道理をわきまえたうえで、「愛」の楽しい部分だけを享受したいと願っています。
「さらっとキスして別れたほうがいい」と言ってみたところで、実際にはそうできないので言うだけ無駄なようです。
どうにもならないことだとわかっていても、「愛を忘れられない、悲しい愛は知りたくない」と「陽炎」のように心が揺れ動く様子が伝わってきます。
本当は愛されたかった

「躊躇い」(ためらい)とは「決めかねてぐずぐずすること、躊躇(ちゅうちょ)すること」。
「今日」2人で愛し合ったことを「忘れてほしい」と願ったり、逆に「忘れてしまうの?」と苦しんだり、またしても「陽炎」のように心が揺れ動いています。
このような躊躇が「愛」なら知りたくない、知りたいという点でも相反する気持ちが混在しています。

最初は「愛など忘れたほうがマシ」と強がっていましたが、最終的には「明日を忘れるほど愛してほしい」という結論に辿り着きました。
粋ではない下世話で儚いものだとわかっていても、本当は愛を手に入れたかったわけですね。
この転換こそ、「春ひさぎ」そのものを表現しているでしょう。

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さいごに
「春ひさぎ」では、「音を盗む泥棒」が「商売としての音楽」を成立させるために大衆寄りのラブソングに徹した印象です。
ただ、わかりにくい表現も多く、ヨルシカ流の壮大な物語になっているので、巷に横行する本当に「春ひさぎ」的な楽曲へのアンチテーゼと言えるのではないでしょうか。