宇多田ヒカルさん「大空で抱きしめて」の歌詞の意味を考察します。

大空で抱きしめて 歌詞考察
休みの日の山登り?
晴れた日曜日の改札口は
誰かを待つ人たちで色づき始め今日はどこか遠くへ行きたい気分
出典:大空で抱きしめて / 作詞・作曲:Utada Hikaru
空の見える場所へ
最初と最後でまったく別の曲というくらい雰囲気が変わる「大空で抱きしめて」。
軽快で明るいアコギのリフが印象的なイントロに続く、1番のAメロは、休みの日に山登りにでも出かけるようなワクワク感に満ちています。
幸い天気には恵まれているようですが、駅で待ち合わせる人々を横目に、単独行動しているのかもしれません。
アコギのリフに、「晴れた~」からブラシでスネアドラムを叩いた音をプログラミング(打ち込み)したような不思議なビート、「今日は~」からクリス・デイヴのドラムが重なります。
「改札口=登山口」から「空の見える場所=山頂」を目指して、「どこか遠くへ」出発しましょう。
雲の中 飛んでいけたら
出典:大空で抱きしめて / 作詞・作曲:Utada Hikaru
大空で抱きしめて
君はまだ怒ってるかな
意地を張らずにいられなくて
1番のBメロ前半「雲の中~」ではアコギのリフは続いているものの、ビートとドラムがブレイク(休止)してコーラスが入り、後半の「君はまだ~」ではドラムが復活してストリングスが重なります。
AメロからBメロにかけては、穏やかな変化。
山を登りながら「雲の中へと飛んでいく」ことを想像している雰囲気です。
曲名の「大空で抱きしめて」という願いが叶い、壮大な自然と一体化するような感覚に包まれるでしょう。
「君」はケンカ別れした元恋人でしょうか。
あるいは亡くなった母親かもしれません。
リスナー自身、思い思いに誰かを当てはめることができるでしょう。
いつの日かまた会えたとしたら
出典:大空で抱きしめて / 作詞・作曲:Utada Hikaru
最後と言わずにキスをして
もし夢の中でしか会えないなら
朝まで私を抱きしめて
「タッタッタッタッ、タタタ~」とスタッカートで刻まれるリズムが印象的な1番のサビ。
ドラムは続いているものの、アコギのリフがブレイクして、エレピやモーグが交ざります。
Bメロからサビにかけては、激しい変化。
ただ、サビで印象が変わるのはJ-POPではよくあることなので、想定内といえるでしょう。
それにしてもAメロとサビでは山の天気のように急激に変化しているので、いよいよ山頂にたどり着いたというか、「雲の中みたいな遠い別天地」に誘われたのかもしれません。
どうやら語り手の「私」と「君」は「夢の中でしか会えない」ようです。
「別れたのか、亡くなったのか?」という「会えない理由」も、「恋人、家族、仲間」などの関係性もリスナーの想像に委ねられています。
いずれにしても「君を怒らせたまま」だったのが心残りで、こうして「夢の中」のような「雲の中」に会いに来たのでしょう。
夢のような音楽に昇華された
涙で目が覚めた月曜日の朝
出典:大空で抱きしめて / 作詞・作曲:Utada Hikaru
急いで支度をした
1番で「改札口」から「雲の中=夢の中」へと誘われ、まるで別の曲かと思えるほどの展開になったので、その「1番のサビ」から「2番のAメロ」へのつながりが最も落差があることになります。
「果たしてどのようにつながったのか?」というと、サウンド的にはドラムが継続されてアコギのリフが復活し、エレキギターやストリングスも交ざることで心地いい違和感に昇華されました。
DJがBPMを合わせて別の2曲をつなげるほどのスムーズさに度肝を抜かれます。
歌詞は、「晴れた」が「涙で目が覚めた(心が雨模様)」、「日曜日の改札口(休日)」が「月曜日の朝(平日)」に変わったことで伏線が回収されました。
一気に現実の日常に引き戻されるばかりでなく、「日曜日に山登りの夢を見て泣いただけかもしれない」とか「改札口はこの世とあの世の境目(常世の入口)だったのだろうか」といった浮遊感も漂います。
僕はまだあの頃のまま
出典:大空で抱きしめて / 作詞・作曲:Utada Hikaru
青空で待ち惚け
夏の花が散る頃には
笑顔で僕を迎えに来て
2番のBメロでは、語り手が「私」から「僕」に変わりました。
この「僕」はおそらく「私」が「君」と語りかけていた相手でしょう。
「夏の花」は「ヒマワリ、アサガオ、ハス」などさまざま当てはまりそうですが、「夏の花が散る頃」は「お盆、命日」をあらわしているのかもしれません。
宇多田ヒカルさんの母親、藤圭子さん(1951年7月5日~2013年8月22日)の「圭子の夢は夜ひらく」も連想できるでしょうか。
いずれにしても「私」は「大空で抱きしめて」と願い、「君=僕」は「青空で待ち惚け」と韻を踏みながら返答しています。
純なあなたが誤解するから
おしゃべりな私を黙らせて
傷ついたのはお互い様だから
四の五の言わずに抱き寄せていつの日かまた会えたとしたら
出典:大空で抱きしめて / 作詞・作曲:Utada Hikaru
もう一度私を困らせて
もし夢の中でしか会えないなら
朝まで私を抱きしめて
2番のサビでは語り手が「私」に戻りました。
この楽曲全体が「夢の中」なので、2番のBメロのみ「僕」目線になることで「2人は会えた」のかもしれません。
「私と僕」という「女性と男性」の恋人同士のような一人称になっているのは、「宇多田ヒカルさんと藤圭子さん」という「娘と母親」の物語に限定(誤解)されないようにするためでしょう。
その結果「おしゃべりな私=自我=宇多田ヒカルさん自身」を「黙らせて」、「僕」を登場させたと考えられます。
つまり「純なあなた」は「リスナー」のことで、普遍的な解釈が望まれているようです。
わかっているわ、欲張りなのは
出典:大空で抱きしめて / 作詞・作曲:Utada Hikaru
でも最後と言わずにキスをして
もし夢の中でしか会えないなら
天翔る星よ 消えないで
ストリングス、ドラム、コーラス、エレキギターが印象的な間奏に続く、ラスサビです。
「朝まで私を抱きしめて」が「天翔(あまかけ)る星よ 消えないで」に変わり、ストリングスとドラムに不思議なビートが重なるアウトロで締めくくられました。
この不思議なビートが「天翔る星」のようでもあり、「夢の中でしか会えないなら、朝まで抱きしめるだけでなく、夜が終わらないでほしい」と「欲張り」なことを願っています。
リスナーに幅広く解釈してほしいと望むのは「欲張り」で、どうしても母親と娘の物語と捉えられるのは「わかっている」けれど、ラブソングにもなるように「キスをして」と入れたかったのでしょう。
それでも「母親と娘のキス」もあり得ますが、何よりこうして「夢のような音楽」として昇華されたことが癒しになるのではないでしょうか。

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さいごに
どれほど大切な人であっても、あるいは大切な人だからこそ「お互いに傷つく」こともあるはず。
それでも「四の五の言わずに」極上の音楽へと昇華しているところに、宇多田ヒカルさんの人間性、すなわち音楽家としての誇りがあらわれているといえるでしょう。
この境地にたどり着くまでには想像を絶する葛藤があったと思われますが、「傷を癒す極上の音楽」として届けられたことに感謝しているリスナーが多いのではないでしょうか。
この極上のサウンドを彩ったクリス・デイヴはディアンジェロの名盤『Black Messiah』にも参加しているので、ぜひ聴いてみましょう!