今回は2020年2月14日に発表された、まふまふさんの「ノンタイトル」の歌詞考察をしていきます。
この曲の作詞作編曲も行ったまふまふさんは、Youtubeの概要欄に以下のようなメッセージを書いています。
まふまふさんのこの言葉から、この曲のテーマが「失うこと」「描かれない人生」であることが読み取れます。
このことを意識しながら、歌詞考察を進めていきましょう。

ノンタイトル 歌詞考察
「ノンタイトル」の意味
タイトルという英語には、いくつかの意味があります。
(1) 題名
(2) 称号、肩書き
(3) 権利
(1)の題名。レンズ、エンドロールなど、映画を思わせる言葉がこの作品の中に散りばめられています。
この曲名を聞くと「題名が無い」「無題」という意味を思いつきますが、曲名に込められた意図はそれだけではありません。
何故ならば、正しい英語はこの場合「No Title」、ノータイトルとなるからです。わざわざノンタイトルという曲名を付けたならば、そこには何か意味があるはず。
一般的に、ノンタイトルという言葉が使われるのは(2)の意味。
ボクシングのノンタイトル戦(=タイトルが賭かっていない試合)ですね。
その他、野球でいうMVPやホームラン王などの個人タイトルのように、肩書きという意味で使われる場面も多くありますね。
あまり知られていないのは(3)の意味、権利です。
法律的な権利のことで、特に土地の所有権を表す場合に使われます。
この3つの意味をもとに、歌詞を読み進めます。
困窮した生活からの旅立ち
朝をこぼした木組みの隙間
風の抜け道 春色の空
君の寝言がつぶやくすべてで
今日が始まるみたいな
春の日、穏やかで暖かな朝。
「君」に対する主人公の優しい眼差しが感じられます。
しかし、この風景から感じるのは穏やかさだけではありません。
木組みの隙間から朝の光が差し込んでくるというのは、つまり、天井も壁も無い(もしくは一部が壊れてしまっている)家ということ。
二人の住んでいる家はぼろぼろ。お世辞にも、裕福な暮らしとは言えません。
蜘蛛の巣張った戸棚を開けて
カビ生えかけのライ麦のパン
かばんに詰めてどこかへ行こうか
君の知らない街
さらに続く場面でも、やはり同じ。
戸棚には蜘蛛の巣が張っています。パンを入れるこの戸棚はほとんど開閉されず、ほとんど使われていない。
つまり、その日の食事をとるのにも苦労する状況であることが分かります。
そこに入っているライ麦パンは、本来は保存食。
ヨーロッパでは1か月くらいかけて食べるパンにカビが生えかけていることも、残りの食料がわずかになるまで追い込まれている状況を示しています。
また、この部分は、ただ旅行に出かけたというだけの意味ではなさそうです。
最後に1個だけ残ったパンを持って出ていくならば、もうここに戻る理由はありません。
自由を求めて旅立ったと受け取ることが出来ます。
道行くだけで台詞もなければ
撮り直しもないワンシーン
どのカメラにもこぼれた世界に
台本も監督も何もない
ただの居場所のひとつもない
それがボクの映画か
この場面からは、主人公が「君」と過ごす時間の大切さを感じますね。
撮り直しもないワンシーンとは、全ての場面が愛おしく、替えがきかない思い出なのだという意味でしょうか。
しかし、この部分の3行目以降には、逆に、疎外感が見て取れます。
この世界に人はいっぱいいて、色々なものを見ているのに。
人々は関わり合って生きているのに。
自分を見てくれる人は誰もいないし、関わってくれる人もいない。
居場所だった家からは出てきてしまった。
ボクの人生は、ずっとこのままなのだろうか。
世界からはじき出されたような疎外感です。
失ったものは何か?
失ったものなんて数えなくていいよ
ボクら理由無しに生まれたノンタイトル
何も気にしないで泣きじゃくっていいよ
誰も君の声なんて聞いちゃいないさ
住んでいた家もぼろぼろ、戸棚にはカビかけのパンしか残っていない二人。
彼らが失ったものは何だったのでしょうか。
そこを解くカギが、先ほどの「タイトル」という英語の3つの意味にあります。
「ノンタイトル」の意味は、
1. 題名を持たない ⇒人に意識を向けられることがない。無名のものとして扱われる。
2. 肩書きを持たない ⇒大した力を持っていない。
3. 権利を持たない ⇒人として当然与えられるべきものを与えられなかった。
といったように解釈することが出来ます。
「理由なしに生まれたノンタイトル」から分かる通り、二人は生まれた時点で既にノンタイトルだった。
つまり、親からの愛情をまともに受けることが出来なかったこどもだと解釈することが出来ます。
失ったというよりも、最初から何も与えられていなかった。
そんな二人の物語ではないでしょうか。
本来、こどもが泣きじゃくったら最初に声を聞いてくれるのは親です。
なのにだれも聞いてくれない。
二人に愛情を注いでくれる人は誰もいません。ただお互いを除いては。
瓦礫の花を紡いだボートで
君とふたりの逃避行
ボクらを祝うケーキはないけど
ああ こんな果物ナイフで
そんな盗んだブーケも
君を飾れるんだなあ
ケーキ、ナイフ、ブーケ。
結婚式を思わせる言葉が並び、二人がお互いを思う愛情は本物であることが伺い知れます。
それが異性としての愛なのかは分かりませんが、死ぬまで愛することを誓う象徴ですね。
死が二人を分かつまで。
しかし、同時に物騒な言葉も並んでいます。
財産や安心して住める場所。そんな権利を持たない二人は、生きるために犯罪に手を染めなければならない状況にまで追い詰められています。
そんな二人の逃避行。
二人の愛情は、決して社会に祝福されるものではありませんでした。
MVではこの後、二人が銃弾に襲われる様子が描かれていきます。
二人の行きつく先は
ねえ どこか遠くへ逃げようよ
ここじゃないどこか遠くへ
もう広角のレンズにだって
映らないどこか遠くへ
曲の緊迫感が増すとともに、先ほどの「どこかへ行こうか」は「どこか遠くへ逃げようよ」と変化しています。
追い詰められていく二人の切実さが見えるようです。
そして最後に寝る前に
鳴りやまぬ銃の中で
君の両目に映りこんだ
それだけでいいなあ
結果的に少年は銃に撃たれてしまうのですが、
「それだけでいいなあ」とは、死にゆく自分のことは忘れて君は先に進んでいいよ、という少年のやさしさの表れです。
一生愛することを誓ったけれど、それは死が二人を分かつまで。決してそれに縛られてはいけない。
君は泣かないで 泣かないでいいよ
終わり2分前のエンドロールにタイトル
それは誰一人も覚えていないような
きっと在り来たりだった物語失ったものなんて数えなくていいよ
ボクは理由無しに生まれたノンタイトル
何も気にしないで泣きじゃくっていいよ
誰もボクのことなんて知りやしない
だけど、君が愛されていたのは紛れもない事実。
先ほどの「ボクら理由なしに生まれたノンタイトル」が、「ボクは……」に変化しているのは、「君」はもはやノンタイトルではないからです。
少なくとも「ボク」が君を愛したから。
君が忘れてしまった「ボク」の物語は、在り来たりな、誰も覚えてなくてもいいもの。
だから君は、失ったものなんて数えなくていいよ。
誰かに愛された経験がある君は、僕のことなんて忘れて先に進めばいい。
これは、描かれることはないけれど、誰かの胸の中で生き続ける物語です。

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さいごに
「ノンタイトル」は、誰にも顧みられることが無い、親にさえ見放されて愛情を失った二人の境遇が込められたタイトルでした。
1単語の様々な意味をダブルミーニング、トリプルミーニングとして使うまふまふさんの素晴らしいセンスですね。
愛情で結ばれた二人は引き裂かれてしまいますが、お互いに愛情を与え合い、意味のある存在になれたのだと思います。
「君」はこれから、「ボク」に愛された過去を胸にしまって新しい道を歩いて行けるのではないでしょうか。
MVの二人が最後に笑っていたことが、明るい未来を暗示しているようでした。
描かれない人生でも、絶対に意味はある。
そんなメッセージを贈ってくれる曲だと思います。
失ったものなんて数えなくていいよ
どうも まふまふです
描かれない人生を書きました