ヒップホップユニット・Creepy Nuts(クリーピーナッツ)の「のびしろ」は、2021年9月リリースの2ndアルバム「Case」収録曲。
同年8月に先行配信されました。
タイトルにはどのような意味が込められていて、何について描かれた楽曲なのでしょうか。
ラッパーのR-指定さんが作詞、DJ松永さんが作曲した「のびしろ」の歌詞について考察します。

のびしろ 歌詞考察!
簡単にくくれなかった三文字とは?

「~かた」(あ段+あ段)など、韻を踏みまくるフック(サビ)から始まります。
これだけ「山のように」韻を踏んでも意味不明にならないどころか、内容の深いリリック(歌詞)になっているところが、まさに「のびしろしかないわ」状態。
「~しかない」という流行り言葉に、「び+し+し+い(い段)」と「か+な+わ(あ段)」の耳心地のいい韻をかぶせることで、圧巻のパンチライン(印象に残るフレーズ)になっています。
こうした響きを重視した言葉遊びを脇に置き、意味や内容に注目してみましょう。
「のびしろ」とは「成長する余地、余白、潜在能力」のこと。
つまり「やっと力が抜けて柔軟なやり方がわかってきたけれど、年をとっても覚えたいことだらけで、これからも成長し続けるに違いない」という話です。

大阪府堺市出身のR-指定さんは1991年9月10日生まれで、アルバム「Case」リリース直後の2021年9月10日が30歳の誕生日。
新潟県長岡市出身のDJ松永さんは1990年8月23日生まれで、R-指定さんより1年早く、2020年に30歳になりました。
そのとき既にR-指定さんは30歳の節目についての楽曲を作る構想を抱いていたそうです。
インスパイアされたのは、30代の心情が描かれたDJ TATSUTA feat. RHYMESTERの「Trust Over 30」。
つまり「のびしろ」で描かれているのは、30歳を迎えるR-指定さんの心情です。
「大阪と東京(地元と都会)、子供と大人」という対立構造でディスる(否定する)だけでなく、相手側に寄り添うこともできるようになった矛盾と向き合っています。
「簡単にくくれなかった三文字」とは「大人、子供、男、女」など。
2020年2月に配信リリースされた、ドラマ「コタキ兄弟と四苦八苦」の主題歌「オトナ」(2ndミニアルバム「かつて天才だった俺たちへ」収録曲)も連想できます。

20歳の誕生日目前の19歳で、大人になることを意識する人も多いでしょう。
「とうとう大人になってしまう」と嫌悪感を覚えたり、無理して大人ぶったりしがちなところは、むしろ子供っぽいといえるかもしれません。
29歳のR-指定さんは「30歳でようやく大人になる感覚」を肯定的に捉えています。
大人といっても完璧な存在ではなく、弱点や潜在能力などの余白があることを受け入れ、自分らしく柔軟に生きる方法を見つけたようです。

「スカイツリー」も「東京タワー」も東京の象徴です。
「大阪の子供」から「東京の大人」へと変化を遂げ、いつのまにかなじんでいる様子が伝わってきます。
スカイツリーと東京タワーが重なる意味

地球上で一般的な暮らしをしている限り、時間の速度は一定なはずですが、年齢を重ねるとなぜか時間の流れが早く感じられるものです。
30歳間近のR-指定さんは幸せを感じやすく、傷が治りにくくなっている模様。
「手負い」とは「傷を負った状態」のことです。
ダメージからの回復に時間がかかっても、楽しいことが次々と起きればプラスマイナスゼロ。
そもそも過度な期待をせず、無理をしなければ傷つきにくい、と思い込むのも大人の知恵かもしれません。

R-指定さん流の「柔軟な生き方」が満載です。
「19歳のR-指定さん」はMCバトルでラッパーとして活躍する「大阪の子供」でした。
「29歳のR-指定さん」は、「年齢、売り上げ、ランキング」などの「数字」や「子供、大人」という「三文字」の区別にとらわれる必要はないけれど、節目に自覚をもとうとしている「東京の大人」です。
そんな「29歳のR-指定さん」が「19歳のR-指定さん」に引き戻されるくらい、巨大な建造物が立ちはだかります。

「スカイツリー」と「東京タワー」と「29歳のR-指定さん」が重なりました。
その背中を見つめているのが「19歳のR-指定さん」ではないでしょうか。
「大阪の子供」(東京タワー)と「東京の大人」(スカイツリー)が重なったとも受け取れます。
R-指定さんは19歳から29歳へと成長しましたが、「スカイツリー」の高さは634メートル、「東京タワー」の高さは333メートルです。
「2つの電波塔の高さ-29歳のR-指定さんの身長」が「30代のCreepy Nutsののびしろ」とも考えられます。
たしかに「のびしろしかないわ」状態ですね。

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さいごに
サッカーの本田圭佑選手が「のびしろは常にマックス」という名言を吐いたのは、26歳の誕生日を5日後に控えた25歳。
2012年6月、FIFAワールドカップ(W杯)アジア最終予選の日本対ヨルダン戦で圧勝した後のインタビューでした。
プロサッカー選手が現役を引退する平均年齢は25~26歳なので、転換期だったとも考えられます。
R-指定さんが本田圭佑選手の名言を意識したかどうかはわかりませんが、年齢を重ねるにつれ相手側の立場も思いやれる、ポジティブで柔軟な生き方を学び続けたいものですね。