「ムシ」は、ボーカロイドプロデューサーの【Chinozo】(ちのぞー)さんが作詞作曲を手がけています。
Chinozoさん2018年にボーカロイドプロデューサーとしてデビューし、代表曲である「グッバイ宣言」はYOUTUBE内でのVOCALOID楽曲再生回数1位、VOCALOID曲初の1億再生を達成しています。
今回は、2022年5月リリースされ、100万再生を突破している「ムシ」の歌詞を考察していきます!
安定の軽快なリズム感はありつつも、ガラッとお洒落かつ可愛さのある雰囲気で、一瞬で惹き込まれるような一曲。
歌詞にはどのようなメッセージが隠されているのか、紐解いていきましょう!

ムシ 歌詞考察
曲には、琴葉姉妹という双子の姉妹が登場します。姉の茜は関西弁でちょっと天然、妹の葵は標準語でしっかり者の性格です。
美しさを競いあい、口論をする双子の姉妹
曲の入り出しは、「僕がこの世で一番美しいでしょ」です。姉妹がお互いに美しさを競い合い、口論をしているような歌詞が続きます。
僕がこの世で一番美しいでしょ
今日もくだらない顔して
僕に罵声を浴びせるのね
上等 お気に召さない?
このテーブルマナーが鼻につくのかしら今日もくだらない顔して
出典:ムシ / 作詞・作曲:Chinozo
僕に罵声を浴びせるのね
そういえば、いつからワインなんて
ちょっと前から苦手だとかほざいてたくせに
「今日もくだらない顔して僕に罵声を浴びせるのね。上等、お気に召さない?」は妹の葵。
「今日もくだらない顔して僕に罵声を浴びせるのね。そういえば、いつからワインなんて、ちょっと前から苦手だとかほざいてたくせに」は姉の茜。
双子姉妹は2人で1つ
分かった 分かった
出典:ムシ / 作詞・作曲:Chinozo
コロコロコロ変わる世界
僕がこの世で一番美しい
ところが、ここからの歌詞は、姉妹2人で歌われており2人で1つであることを指しています。2人で1つとは、本当の自分と、そうでない自分の2人がいるトランスジェンダーを指しています。
「分かった 分かった コロコロコロ変わる世界」という歌詞は、今まで何度も変化に振り回され、自分ではコントロール不可能な世界に対して諦めを感じているということでしょう。
2人で1つの姉妹が出した結論。それは「僕がこの世で一番美しい」ということ。誰からも愛されず、認められない。しかし、自分がこの世で一番美しいと信じ、強い意志を持っている姿が描かれています。
死別した双子のストーリー?
MV内に登場する「紫の蝶」。みなさん、紫の蝶が何を意味するかご存知ですか?
紫の蝶は、双子を授かり、片方の赤ちゃんが亡くなってしまったことを意味しているのです。そのことから、1人しかこの世に生まれなかったと捉えられます。
姉妹で登場してくることから、死別した姉妹を表している(本当の自分との別れ)と考えることができます。
Owe Owe Owe
Bad Feeling
それはきっとつまらん情よ
くだらないでしょ
Owe Owe Owe
Bad Feeling
絡ませておいで僕を愛してくれ 愛してくれ
出典:ムシ / 作詞・作曲:Chinozo
溺れるように
この酸いまでも甘いまでも味わっちゃえ
だってしょうがないよね しょうがないよね
僕の匂いに攫われたんだからね
まるで飛んで火に入る夏の君(ムシ)
そして、「Owe」負う、借りがあるという意味、「Bad Feeling」は嫌な予感という意味の歌詞に続きます。ここは、世間からの目や、うるさいざわつきを指しています。世間はざわざわするだけで決して救いの手は差し伸べてはくれません。
リズミカルなハイトーンな曲調とは裏腹に、「僕を愛してくれ」という歌詞から、2人は愛され、認められたかった、という内容を表しています。トランスジェンダーとして生まれ、愛されたい、認められたいという気持ちを表現しているのかもしれません。
そして、「溺れるように この酸いまでも甘いまでも味わっちゃえ」は、生まれることのなかった姉妹の片方(押し殺したもう1人の自分)からの苦い経験も甘い経験もすべてを溺れるように味わっちゃえというメッセージでしょう。
何度も繰り返される「しょうがない」とはどういう意味なのでしょうか。それは、2人で1つの私たち姉妹(トランスジェンダーのありのままの自分)を愛してくれないものに対しての言葉と捉えられます。
死別をすると、周りの言葉が針のように胸に突き刺さることがあります。悪気の欠片もない言葉に傷ついても、誰が悪いなんてことはなく、誰も責めることもできない。トランスジェンダーとして生まれ、そんな風に感じる場面があったのだと思います。
死別の状況、悪気ない言葉が心に傷をつくる場面を重ねて、「しょうがないよね」という表現を使っているようにも考えられます。
「まるで飛んで火に入る夏の君(ムシ)」の歌詞では、自分からリスクを承知で災いの中に飛び込む(もう1人の自分を押し殺すというリスクを負い、身を滅ぼしてしまう)ようなシーンを表しています。姉妹の片方(本当の自分)は、自ら死を選択した、とも取れます。そうせざるを得ない状況(世界)だった可能性も暗示させています。
姉妹が求めたシンパシー
だってしょうがないよね しょうがないよね
僕の風が心地良すぎて凪いでくの シンパシー僕を愛してくれ 愛してくれ
溺死するように
ただ抱きしめて 抱きしめて
潰れるまで
だってしょうがないよね しょうがないよね
僕の匂いに攫われたんだからね
まるでいつの間にか狂っていた
飛んで火に入る夏の君(ムシ)飛んで火に入る夏の君(ムシ)
出典:ムシ / 作詞・作曲:Chinozo
歌詞中にある「シンパシー」とは、相手のつらさに同調したり、何らかの感情を共有したり、相手の意見や言葉に共鳴したりすることを意味する言葉です。
姉妹の本当に求めていたのは、共感・共鳴。理解されずに苦しんでいる様子が歌詞のすべてから感じ取れます。
「いつの間にか狂っていた」という言葉で、もう1人の自分を押し殺し、自分でも自分が分からないくらいになっているのでしょう。
歌詞が伝えたかった本当の意味とは?
終始、姉妹の強気な表情は、意志があるように感じられます。
この歌詞は、トランスジェンダーである人が生まれ持った性と心の性を双子の姉妹として表しています。ありのままの自分を愛し、認めてほしいというメッセージを伝えています。
歌詞の冒頭で口論をしていたのは、トランスジェンダーとして自分の中での葛藤(生まれ持った性としての主張、心の性として主張)として描かれているのでしょう。
時として悪気のない言葉が誰かの心を傷つける。誰が悪くないし、誰も責めることもできないからこそ、その状況を歌詞にして伝えているのかもしれません。
曲のタイトルである「ムシ」もトランスジェンダーとしての心の叫びを「無視」する世界、紫の蝶で死別(ありのままの自分との死別)を表す「虫」をかけていると考えられます。

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最後に
現代では今までに比べ、性の多様化が認められつつありますが、まだ認められていない部分もあるのが現実です。
誰もが生きやすいよう、双子の姉妹を通してメッセージを投げかけているのかもしれません。
深いメッセージをハイトーンなリズムに乗せている天才的なchinozoさん。これだけ注目されている理由が分かりますよね。今後の活躍にも目が離せませんね!