くじらさん「呼吸」(2022年8月)の歌詞の意味を考察します。
初の自身歌唱アルバム「生活を愛せるようになるまで」(2022年8月)の先行配信曲。
くじらさんが作詞・作曲した「呼吸」の歌詞の意味を紐解きましょう。

呼吸 歌詞考察
鏡のような君に気づかされること
浅い呼吸で抱き留めて
出典:呼吸 / 作詞・作曲:くじら
朝焼けに紫の煙
濡れた横顔に長い髪
増えなくなった吸い殻
「浅い呼吸」と「朝焼け」で韻を踏みながら、「紫の煙」につながる冒頭です。
ジミヘンことジミ・ヘンドリックスの2ndシングル「パープル・ヘイズ(紫のけむり)」(1967年)を連想できるかもしれません。
ただ、曲名にもなっている「呼吸」のなかでも「深呼吸」ではないので、その辺りの関連性は「浅く受け止めて」といったところでしょうか。
主人公の男性はどうやら恋人の「君」と一緒に暮らしているようです。
「朝」から煙草を吸っているのは主人公でしょうか、それとも「君」でしょうか。
いずれにしても吸う本数は減っているようです。
ロングヘアなのは「君」のようですが、シャワーを浴びて「長い髪ごと顔が濡れている」のか、あるいは涙を流しているのかもはっきりしません。
いずれにしても「朝」の気だるい雰囲気が漂っています。
抜け殻になった言葉
出典:呼吸 / 作詞・作曲:くじら
雑に片付けた食卓
日によって変わるベッドのシワ
うららかな箱庭
「ベッドのシワ」は「君(と主人公)の抜け殻」でもあるのでしょう。
その「抜け殻」はあえて「言葉」にかかるかたちで用いられていますが、「ベッドのシワ→抜け殻の言葉→紫の煙と吸い殻→呼吸」とさかのぼって腑に落ちる流れになっているようです。
描かれているのは「交わす言葉が、ベッドのシワのような抜け殻になった2人の生活」。
付き合いが長くなると妙な気を使わずに済むので、暗黙の了解で通じることが多くなり「言葉数が減る=増えなくなる」イメージかもしれません。
同棲生活は結婚生活の「箱庭=ミニチュア」ともいえそうですが、「うららか=晴れ晴れとして、のどか」とのことなので、「君」が泣いているなどのネガティブな話ではないようです。
混む道のバイクの音に消されてゆく
出典:呼吸 / 作詞・作曲:くじら
なんだか騙し騙し生ききれてしまった
「2人の会話(もしくは主人公が口にする言葉)が中身のない、空虚なものになった」というニュアンスも感じられましたが、物理的に「言葉がバイクの音に消される」側面もあるようです。
このように「詩的かつ抽象的で曖昧(あいまい)な歌詞=抜け殻になった言葉」が徐々にさまざまな意味を帯びてくる手法こそが「騙し騙し生きる」様子を体現しているようにも感じられます。
こうしたメタ(フィクション)的な視点でも解釈できるほか、2人の恋物語としては「騒がしい日常に心の空虚さがかき消され、何となく生きることができてしまっている」といった主人公の内面が吐露されているようです。
よく聴こえないからもう一度言って?
出典:呼吸 / 作詞・作曲:くじら
長くなって落ちた灰の跡が付く
他人とは生きる鏡か?なんて
寄せる波と朝焼けの間程曖昧
1番のサビです。
「バイクの音に消された」のは主人公が言った「言葉」で、「君」は「よく~言って?」と催促しています。
おそらく主人公は煙草に火を灯したまま「君」や部屋を眺めながらぼーっと考え込んでいたのでしょう。
「鏡」という表現から、「君の心の声もよく聴こえなくなっている」と言いたげな主人公の内面が浮き彫りになります。
「自分と他人」や「精神的と物理的」などの境界線は「曖昧」というか、「(精神的な意味で)言葉が抜け殻になっている」と感じる主人公にとって、「(物理的に)言葉が聴こえない」と話す「君」は「鏡」に映った自分のようだ、という話でしょう。
これは言えない遊び?
愛しいと思った口先から
出典:呼吸 / 作詞・作曲:くじら
息と出る言葉は形を持たない命のようで
君の胸にうずまりながら触れる
見えない何かに僕ら反射して
自分が誰かを知ってく
「口先から息(紫の煙)となって出る言葉」と捉えると、「長くなって落ちた灰」も「長くなって届かなかった言葉」と解釈できるかもしれません。
「愛しい」と口に出して言った「言葉」にも「命」が宿り、物理的に「君」に「触れる」ことによっても「鏡」のように「反射」して返ってくる「何か」があることを「呼吸」と表現しているようです。
そうした「呼吸」によって「自分を知る」ことができると感じています。
好きな映画を見よう
出典:呼吸 / 作詞・作曲:くじら
新しい服を着よう
それで薄まるような傷口を持たない者同士で
裏返すと「映画や買い物では薄まらない傷口を持っている者同士」になりそうです。
触れ合えば 僕らは動物
出典:呼吸 / 作詞・作曲:くじら
わんとかにゃあとか言わないだけで
心臓に似た言葉で話をしよう
夏を忘れてしまう前に
2番のサビです。
冒頭の「浅い呼吸」と「心臓に似た言葉」はリンクするでしょうか。
わかりやすい表現に意訳するのは無粋ですが、「停滞期に入って気持ちがすれ違う前に、本音で話し合おう」といったニュアンスが感じられます。
裸足がふたつぬくい場所から出ている
出典:呼吸 / 作詞・作曲:くじら
日によって変わるベッドのシワ
あなたの抜け殻
「ベッドのシワ=あなた(君)の抜け殻」と明かされました。
何らかの「傷」や「空虚な気持ち=抜け殻」を抱えているのは、「鏡」のようにお互い様なのでしょう。
誰も知らない公園で
出典:呼吸 / 作詞・作曲:くじら
光に隠れて言えない遊びをしよう
1番のサビが繰り返された後のラストです。
「誰も~公園」は「箱庭」と重なるでしょうか。
さんざん「ベッドのシワ」が出てきたので、「動物」的な本能を呼び覚ます「夜の遊び」を匂わせているのかもしれません。
「言葉」だけでは足らない「何か」を埋めることができる「夜の遊び」もあるということです。
メタ的に解釈すると、「呼吸」という楽曲自体が「箱庭」や「公園」になっていて、くじらさんとリスナーで「言えない遊び」ができたのではないでしょうか。

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さいごに
「抜け殻になった言葉」が象徴しているとおり、全体的に曖昧な表現が散りばめられています。
やはり「具体的な言葉にしない遊び」が仕掛けられているはずなので、リスナーそれぞれに想像を膨らませて楽しむことができるのではないでしょうか。