今回は2019年5月27日にリリースされたアルバム「三毒史」に収録されている「急がば回れ」の歌詞考察をしていきます。
「急がば回れ」は、椎名林檎さんが作詞と作曲を手掛けました。
ヒイズミマサユ機さんとのコラボレーションである「急がば回れ」。早速歌詞の考察を始めていきましょう!

急がば回れ 歌詞考察
空気無視と自己陶酔

歌詞の中の登場人物は「自称・クリエイター」と、この方を客観的に細かく分析・解説している主人公となっています。
「自称・クリエーター」は仕事中に「業務内容」と「関係ない」「じぶん語り」を始めてしまうちょっと(かなり?)困った人のようです。
空気が読めない自己陶酔系の語りをしてしまう妙なキャラクターである相手を前に、主人公は「どんな顔して何て云」えば良いのか途方に暮れている様子です。
いきなり冒頭から「自称・クリエーター」の方の描写と主人公の愚痴モード全開の歌詞の世界に面食らいますね。
また「酔っぱらって」と「しらふ」の言葉の対比も面白いところです。
胡散臭い恥ずかしい人

更に「自称・クリエーター」の詳細な描写がたたみ掛けられます。
ここで「エトピリカ」と「プログレス」という言葉が出てきました。
「エトピリカ」は葉加瀬太郎さんの楽曲でMBS「情熱大陸」のエンディングテーマです。
対する「プログレス」はスガシカオさんの楽曲でNHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」のテーマソングです。
これら二つの有名ドキュメンタリー番組は前出の「皆が大好きな現場・密着のドキュメント」を指しているのは言うまでもありませんね。
ここでも「へべれけ」と酔っ払っている状態を言う言葉で相手を描写していますが、ドキュメント番組での「じぶん語り」は完璧な様子です。
さらに語る際「声ばっか大きく」雰囲気は「胡散臭」く、「映え」は「万全」な相手に、主人公はただただ「恥ずかしい」という感情しか抱けない状態です。
しかも相手は「ワナビー迷子」とあり、何者かになりたいという願望を抱き迷走している様子です。
主人公の相手に対する描写は実に詳細でかなりストレートですが、実際に職場でこのような人がいたら、やはりあっけにとられ、気恥ずかしくなるでしょうね。

前述の「自称・クリエーター」の描写を踏まえ、ここでは主人公のストレートで辛辣な意見が描かれています。
「山気」(やまけ)という言葉は、広辞苑によると”山師のような気質。冒険・投機を好む心。”などと定義されています。
ちなみに「山師」とは”他人をあざむいて利得をはかる人。詐欺師。”という意味があります。
更に「外連味」(けれんみ)という言葉がありますが、同じく広辞苑によると”俗受けをねらったいやらしさ。はったり。ごまかし。”という定義となっています。
相手が如何に「胡散臭い」雰囲気を醸し出している人物であるかがわかりますね。
そしてそんな人のする仕事というのは「素人」にしか通用しないということで、主人公は相手をストレートにバッサリと斬っています。
「素人」と対比した言葉「玄人」が出てきますが、「自称・クリエーター」とは真逆のプロの「名言」までパクってしまうというその相手に「云いたきゃ手汚せ」と、痛烈に「きちんとプロとしての仕事をしてから発言せよ」と批判をしています。
「自称・クリエーター」のような人が身近にいたら思わず言いたくなるような言葉の数々を繰り出す主人公は、日頃同じよう思いをしている人々の代弁者のようでもあり、実に痛快に感じると共にその苦労が手に取るように理解できますね。
真のプロフェッショナルとは

主人公のストレートな描写は更に続きます。
「自称・クリエーター」は前出のとおり「山気」や「はったり」で仕事をするような人で、つまりは「嘘吐いている」のが日常という訳です。
嘘をつくその「口は下品」であり、その相手の人となりが全て「顔に書いて」ある有様なのです。
「持っていない物をさも持っているかのように云う」とあり、「嘘」の内容が描写されています。
次に、タイトル「急がば回れ」とイコールである「急いちゃことを為損じる」とあり、相手が如何にショートカットをしながら、つまりは手抜き仕事をしている様子がわかります。
そして「ちゃんとはたらけ」とあり、ここでもストレートに相手への要求が提示されています。
最後に「プライド迷子」とあり、プロとしての仕事が出来ていないにも関わらず「プライド」だけは高い様子が伺え、非常に扱いにくい人物であることも見て取れますね。

ここでは、「プロフェッショナル」の仕事ぶりとはどの様なものであるかが描かれています。
「相手を最優先」「黙して丁寧迅速品質」とコンパクトに必要な条件が提示されています。
上記の要件を充たしたその先に「洒落気」「品性・知性」といったものが身につくという訳です。
それに対比するようにダメな仕事に纏わるワードが羅列されています。
「色気才能カリスマ性」とあり、件(くだん)の「自称・クリエーター」を形容するようなワードと共に「ふわっとした物」と説明も付け加えられています。
真の「プロフェッショナルとは」その様な「ふわっとした物」ではないのは明白で「仕事内容だけで能弁に述べ」ることが可能なもの主人公は考えています。
そしてラストにある様につまるところ、それは「愛」という訳です。
きちんとしたプロとしての仕事の根底にあるものは「愛」であり、逆に「愛」が欠如している故に件の「自称・クリエーター」のような酷い仕事ぶりとなってしまうのですね。

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さいごに
本楽曲「急がば回れ」ではプロとしての仕事をするのに大切なノウハウと、その真逆のプロとは言い難い仕事をする人への痛烈な批判が盛り込まれています。
歌詞に登場する「自称・クリエーター」がある特定の人物である可能性がまことしやかにSNSなどで囁かれている様ではありますが、ここではあくまでも普遍的に読み解いていきました。
楽曲では何度も「愛だろ云うなれば」がリピートされ、椎名林檎さんの仕事への対する情熱が強調され、本物の愛ある仕事人であるのが伝わってくるようでもあります。
非常に痛烈で辛辣、そしてクールでアツい楽曲となっている「急がば回れ」。
本楽曲を手掛けた椎名林檎さんの今後の曲にも是非注目したいですね!