サカナクション「アイデンティティ」の歌詞の意味を考察します。

アイデンティティ 歌詞考察
自分らしさは生まれる?
アイデンティティがない 生まれない らららら
出典:アイデンティティ / 作詞・作曲:Ichiro Yamaguchi
アイデンティティがない 生まれない らららら
妻夫木聡さん主演のコメディ映画「ジャッジ!」(2014年1月)の主題歌「アイデンティティ」。
東進「全国統一高校生テスト」のCMソング、アーケードゲーム「jubeat copious(ユビート コピオス)」収録曲(2011年9月~2013年9月)、バラエティ番組「ナカイの窓」のOP・ED曲などにも起用されました。
頭サビでいきなり叫んでいる曲名の「アイデンティティ」は「同一性、自己同一性」と訳されますが、「自分らしさ」もしくは「アイデンティティ」そのままのほうが理解しやすいかもしれません。
つまり「自分らしさがない」と嘆いているということ。
「ジャッジ!」の主人公・太田喜一郎(妻夫木聡さん)は大手広告代理店「現通」の若手CMプランナーですが、上司の大滝一郎(豊川悦司さん)に国際広告祭の審査員の替え玉をするように命じられます。
太田は落ちこぼれ社員なので仕事ぶりを認められたわけではなく、単に「名前のアルファベット表記が同じ」という理由なので、たしかに「自分らしさがない」と嘆きたくなるのではないでしょうか。
さらに同僚の大田ひかり(北川景子さん)に妻役を演じてもらうのも、「苗字の読みが同じ」という理由です。
おまけに「自社のCMを入賞させなければクビになる」というミッションがあるので、「らららら」と開き直りたくなるのも無理はないでしょう。
ただ、映画の内容そのままとは限らず、「メインストリームの音楽業界ではロックやダンスミュージックのアイデンティティがない」などと嘆いている可能性も考えられます。
好きな服はなんですか?好きな本は?好きな食べ物は何?
出典:アイデンティティ / 作詞・作曲:Ichiro Yamaguchi
そう そんな物差しを持ち合わせてる僕は凡人だ
国際広告祭の審査基準(ジャッジの物差し)となるのは「クラフトPR(クリエイティブにデザイン思考で全体設計されたPR)、消費者インサイト(購買心理)の把握、測定可能なビジネス成果」などでしょうか。
トップクリエイターの大滝には備わっている「物差し」かもしれませんが、太田は「何が好きか?」や「服、本、食べ物」といった「平凡」なことしか考えられないようです。
広告審査とはかけ離れているだけでなく、誰かに対する質問だとしても「平凡」かもしれません。
映し鏡 ショーウインドー 隣の人と自分を見比べる
出典:アイデンティティ / 作詞・作曲:Ichiro Yamaguchi
そう それが真っ当と思い込んで生きてた
ファッションやデザインなどのクリエイティブに関わる「鏡」や「ショーウインドー」といった言葉が並びつつ、他者と比較するアイテムとしか認識していないところも一般的といえそうです。
自他の比較をまったくせず調子に乗るのも問題があるかもしれませんが、必要以上に気にしすぎて一喜一憂するのも大変なはず。
ただ「ショーウインドー」と「真っ当と」でさりげなく韻を踏むあたり、これまで「真っ当」だと思っていたことを見つめ直すような変化も感じられます。
どうして 今になって 今になって そう僕は考えたんだろう?
出典:アイデンティティ / 作詞・作曲:Ichiro Yamaguchi
どうして まだ見えない 自分らしさってやつに 朝は来るのか?
ロングトーンの「どうして」の絶叫が印象的な1番のサビです。
「自分らしさ=アイデンティティ」がない夜のような状態が明けて「朝は来るのか?」という話でしょう。
夜がモチーフの歌詞が多いサカナクションにとっての「自分らしさ=アイデンティティ」を夜とすると、「夜に朝は来るのか?」という形容矛盾になりそうなところもおもしろいですね。
この後、頭サビが繰り返されます。
たしかに「夜が明けて朝になる」ことはあっても「夜に朝は生まれない」かもしれません。
どうしても気づきたい?
風を待った女の子 濡れたシャツは今朝の雨のせいです
出典:アイデンティティ / 作詞・作曲:Ichiro Yamaguchi
そう 過去の出来事 あか抜けてない僕の思い出だ
「風に舞う」のではなく「風を待つ」という表現に、「僕」なりの「自分らしさ」を出してみたのかもしれません。
「雨のせいで塗れたシャツを乾かすために、女の子が風を待っている」という「僕の過去の思い出」なのか、「風を待った女の子の思い出」を振り返り、「僕」が「雨」のせいにしたいほど涙を流して自分の「シャツを濡らした」という現在の話なのか、どちらでしょうか。
「風」も「雨」もサカナクションの歌詞によく登場するモチーフなので、これも「アイデンティティ」と深読みすることもできそうです。
あるいは「僕」が「過去」に「好きな服~」のくだりを質問した相手がこの「女の子」で、「風を待った=デートの待ち合わせをしたものの、僕がすっぽかした」のかもしれません。
取りこぼした十代の思い出とかを掘り起こして気づいた
出典:アイデンティティ / 作詞・作曲:Ichiro Yamaguchi
これが純粋な自分らしさと気づいた
こうした「十代の思い出」を振り返るうちに、「あか抜けてない=夜」などの「サカナクションらしさ」が出てくるようになったと解釈することもできそうです。
どうして 時が経って 時が経って そう僕は気がついたんだろう?
出典:アイデンティティ / 作詞・作曲:Ichiro Yamaguchi
どうして 見えなかった自分らしさってやつが 解りはじめた
タイアップ先の「ジャッジ!」にふさわしい主題歌にするために、登場人物の心情になぞらえた歌詞で始まったものの、違和感なく「サカナクションらしさ=自分らしさ」を出すことができたという話でしょうか。
たしかに「ジャッジ!」の太田やリスナーの「大人になってから気づく自分らしさ」とも重なります。
どうしても叫びたくて 叫びたくて 僕は泣いているんだよ
出典:アイデンティティ / 作詞・作曲:Ichiro Yamaguchi
どうしても気づきたくて 僕は泣いているんだよ
「夜」や「雨」が「サカナクションらしさ=自分らしさ」なので、「朝は来ない」し「泣いている=雨が降っている」と深読みできます。
さらに「どうして」という疑問が「どうしても」という強い意志に変わるオチも「サカナクションらしさ」のあらわれでしょう。
サカナクションの物語としてこれほど自己表現しても、しっかり太田やリスナーが「叫びたくて泣いている」様子も目に浮かびます。
あるいはリスナーに対して、太田とサカナクションの双方が「僕に気づいてほしいと泣いている」のかもしれません。

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さいごに
結局、語り手は「太田、サカナクションおよび山口一郎さん、リスナー」のうち誰なのか、はっきりジャッジすることはできませんでした。
これこそ「アイデンティティがない」という大オチでしょう。
そのため「僕が誰なのか、どうしても気づきたくて泣いている」という結末でした。
あるいは「僕=音楽」など、サカナクションらしい想像をふくらませるのもアリかもしれません。