ヨルシカのデジタルシングル「心に穴が空いた」(2019年6月)の歌詞の意味を考察します。
帝京平成大学のテレビCMソング(2019年度)として書き下ろされました。
n-bunaさんが作詞・作曲・編曲した「心に穴が空いた」の歌詞を紐解きましょう。

心に穴が空いた 歌詞考察!
心に穴が空く理由

「心に穴が空いた」は2ndアルバム「エルマ」(2019年8月)の収録曲。
音楽を辞めた青年エイミーから手紙が届き、その手紙に影響を受けた女性エルマが手がけたという設定の楽曲です。
1stアルバム「だから僕は音楽を辞めた」(2019年4月)の収録曲「夜紛い」(読み:よるまがい)と対になっています。
「夜紛い」は「自分の人生はマシンガンのようなものだから、音楽で君の心に風穴を開けたい」といった内容です。
そんなエイミーの言葉を受けて、見分けがつかないほど夜によく似た夕方に、エルマは「心に穴が空いた」と返しています。

2枚のコンセプトアルバムでは、エルマのもとを離れスウェーデンに旅立ち亡くなったエイミーと、そのエイミーの足跡をたどってスウェーデンを旅するエルマの物語が描かれています。
エイミーからの手紙によって事実を知ったエルマは、エイミーも、エイミーが亡くなったことも「忘れたい」と葛藤しているのでしょう。
下を向いて歩くため「空の青さがわからない」とエイミーが嘆いていたせいか、エルマの「脳裏」には「青空」と「君=エイミー」が広がっています。

エイミーが「風穴を開けたい」という言葉を残したから、エルマの「心に穴が空いた」という流れです。
そのエルマの「心の穴を埋める」ように心臓の音が響いたと続きます。
これはエイミーの残した言葉や音楽に触発されて、エルマも音楽を作るようになったことを表しているでしょう。
エイミーを失った喪失感や虚無感を「埋める」ように、エイミーの残した言葉が音楽となって鳴り響くものの、亡くなったエイミーに語りかけると「言い訳」ばかりになってしまうという心情が描かれています。

エルマの心模様は土砂降りで、心身ともに冷え切ってしまい、この世には温かいものなど何もないと感じるほど虚無的になったからこそ、逆に「雨だけ温かい」と感じたのでしょう。
エイミーに対して「言い訳」ばかりしてしまうのは、エルマが自分を「繕っている」(つくろっている、意味:体裁よく振る舞っている)と思っているからです。
エルマはエイミーの信奉者で、エイミーを模倣して音楽を作るようになったので、「自分にはオリジナルの顔がない」と感じています。
喪失感との葛藤

深い闇に沈むほど暗い気分でも、突き詰めると「木漏れ日」が差すこともあり、「月明かり」のような光にたどり着くかもしれませんね。

それでも音楽に身を捧げるように亡くなったエイミーのことを思うと、心の闇は広がるばかりです。
どうしようもないとわかりながら「生き返ってほしい」と願うエルマの虚しさが表現されています。

「月明かり」にたどり着くような言葉を綴りたいと思っても「躓いて」(つまずいて)ばかりで、地面に這いつくばるように苦労している様子が伝わってきます。
人生は芸術を模倣する

2枚のアルバムでは、n-bunaさんが信奉する芸術至上主義の作家オスカー・ワイルドの「人生は芸術を模倣する」という言葉が再現されています。
音楽に身を捧げたエイミーを慕って音楽を作るようになったエルマですが、エイミーが亡くなった事実とは折り合いがつかず、「エイミーが残した詩」や「音楽」そのものにも悪態をついています。

芸術至上主義やオスカー・ワイルドの名言は「芸術<人生」ではなく「人生<芸術」で、「人生は芸術の真似事にすぎない」という考え方です。
エルマはエイミーの人生も音楽も模倣したため、エルマ自身は消え去り、エイミーが亡くなった今でもエルマの心にエイミーが「残っている」という意味でしょう。

「さよなら」という言葉は「夜紛い」にも出てくるので、その返答です。
エルマは全身全霊をかけて「縋り付く」(すがりつく)ほどエイミーを信奉してきましたが、病気だったとはいえエイミーが自ら別れを告げたことには納得できません。
エイミーの温もりを「忘れたくても忘れられず」、この先「冷め切った」心のまま生きる辛さが吐露されています。

これまではエイミーの真似をして音楽を作り、オリジナルの自分がないと悩んでいたエルマですが、「エイミーを模倣した音楽はすでに自分のものになっていた」と気づきました。

「音楽で風穴を開けたい」というエイミーの願いが叶い、「エルマの心はエイミーの音楽に撃ち抜かれて穴が空き、心に穴を抱えたエルマが作る音楽にはエイミーとエルマの人生も宿っていた」という結末です。
「作った人の人生が終わろうが続こうが、音楽は心に穴を空け、その穴は広がり続ける」という音楽至上主義もエルマに受け継がれました。

1ヶ月無料で音楽聴き放題!
通常880円/月のAmazonMusicUnlimitedが今なら1ヶ月で体験可能!
この機会に聴き放題サービスをお試ししてみよう!
いつでも解約OK!
さいごに
アルバム「エルマ」は2019年4月に亡くなった、ヒトリエのボーカル&ギターでボカロPのwowaka(ヲワカ)さんに捧げられています。
残されたエルマの心情にも、n-bunaさん自身が投影されているかもしれませんね。