宇多田ヒカルさん「花束を君に」の歌詞の意味を考察します。

花束を君に 歌詞考察
母に捧げる手紙?
普段からメイクしない君が薄化粧した朝
出典:花束を君に / 作詞・作曲:Utada Hikaru
始まりと終わりの狭間で
忘れぬ約束した
ピアノとストリングスの音色が印象的なミディアムバラード「花束を君に」。
主題歌となったNHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」は、生活雑誌「暮しの手帖」出版社の創業者をモデルとした、戦前から戦後にかけての昭和の物語です。
主人公の小橋常子(高畑充希さん)は、父(とと)が結核で亡くなる前に「これから父の代わりに家族(母と妹)を守る」ことを「約束」し、「とと(父)姉ちゃん」として奮闘します。
「始まりと終わりの狭間」や「忘れぬ約束」は「とと姉ちゃん」の物語を踏まえているようにも解釈できるでしょう。
「薄化粧」は「死化粧」なのかもしれません。
花束を君に贈ろう
出典:花束を君に / 作詞・作曲:Utada Hikaru
愛しい人 愛しい人
どんな言葉並べても
真実にはならないから
今日は贈ろう 涙色の花束を君に
曲名の「花束を君に」が含まれるサビです。
「とと姉ちゃんが亡くなった父に花束を贈る歌」と捉えることもできますが、宇多田ヒカルさん自身が公言されているとおり、「宇多田ヒカルさんが亡くなった母、藤圭子さんに捧げた手紙のような歌」になります。
歌詞も手紙も「言葉」で表現されるものですが、旅立った側が実際にどのような思いを抱えていたのかはわかりようがなく、残された側が「言葉」を重ねるほど実際の思いとはかけ離れたものになったり、当事者以外に誤解されたりする可能性もあります。
こうした「言葉にしようがない思い」を「涙色の花束」にして「君に贈る」という話でしょう。
演歌歌手だった藤圭子さんと宇多田ヒカルさんには「人生そのものが音楽」というほど強い絆があったはずで、「花束=音楽」にして昇華することがお互いの癒しになると考えられます。
毎日の人知れぬ苦労や淋しみも無く
出典:花束を君に / 作詞・作曲:Utada Hikaru
ただ楽しいことばかりだったら
愛なんて知らずに済んだのにな
「苦労や淋(さび)しみ」が「憎しみ」などのネガティブな闇(やみ)に向かうのではなく、「愛を知る」きっかけになるところが尊いですね。
もちろん途方もない闇を経験しながら、誰にも言えない「苦労」だったと想像できます。
それでも葛藤している最中のネガティブな心情をそのまま吐露するのではなく、「愛を知ることができた」とポジティブに捉えられるようになってから「言葉」や音楽にしているところが、かえって泣けてくるのではないでしょうか。
花束を君に贈ろう
出典:花束を君に / 作詞・作曲:Utada Hikaru
言いたいこと 言いたいこと
きっと山ほどあるけど
神様しか知らないまま
今日は贈ろう 涙色の花束を君に
既出の「愛(いと)しい人」と「言いたいこと」、「(真実)にはならないから」と「(神様)しか知らないまま」など、サビ同士でさらっと韻を踏むヒップホップ的手法は、もはや宇多田ヒカルさんの常套手段ともいえるでしょう。
「言いたいこと」を言わずに心に留めておくと、ストレスがたまる可能性もあります。
しかし「言葉には言霊が宿っている」という考え方もあり、ネガティブな「言葉」を吐き出すのは相手も自分も傷つける恐れがありそうです。
あるいは、どれほどポジティブな「言葉」でも、美辞麗句を並べるだけでは嘘くさくなる場合もあるでしょう。
歌詞や手紙を書くためには「言葉を選ぶ」作業が必要となり、その作業を行うためのプロセス(過程、経過)によってストレスは解消されていくのではないでしょうか。
その結果「贈られた涙色の花束」によって、リスナーは「神様しか知らない真実」をそっと思いやることができます。
ありがとうに込められた真実
両手でも抱えきれない
出典:花束を君に / 作詞・作曲:Utada Hikaru
眩い風景の数々をありがとう
朝ドラの主題歌で「藤圭子さんに捧げる歌」でもあるので、幅広く伝わるように「わかりやすい日本語のポップミュージック」に昇華することがひときわ心がけられたことでしょう。
これまで「Aメロ→サビ」が2回シンプルに重ねられてきましたが、3回目の変化球的なメロディーにもぐっとくる人が多いのではないでしょうか。
「ありがとう」というシンプルな感謝の「言葉」が、「こぶしの利いた演歌」や「憂いのこもったブルース」のようにも響きます。
世界中が雨の日も
出典:花束を君に / 作詞・作曲:Utada Hikaru
君の笑顔が僕の太陽だったよ
今は伝わらなくても
真実には変わりないさ
抱きしめてよ、たった一度 さよならの前に
生前にはいろいろあったかもしれませんが、亡くなった「今」となっては、宇多田ヒカルさんが思い出す母、藤圭子さんの表情は「笑顔」なのでしょう。
これは「真実」とのこと。
「抱きしめてよ」という歌詞は、サントリー天然水のCMソング「大空で抱きしめて」ともリンクするかもしれません。
「母なる太陽に抱かれる温もり」といった普遍的な自然の摂理にまで昇華されているような雰囲気も漂います。
花束を君に贈ろう
出典:花束を君に / 作詞・作曲:Utada Hikaru
愛しい人 愛しい人
どんな言葉並べても
君を讃えるには足りないから
今日は贈ろう 涙色の花束を君に
宇多田ヒカルさんが母、藤圭子さんに「言いたいこと」は「君を讃えること」だったようです。
藤圭子さんはアイドル的な演歌歌手として「女のブルース」や「圭子の夢は夜ひらく」などをヒットさせ、NHK紅白歌合戦にも出場しました。
しかし、こうした功績をどれほど列挙しても、宇多田ヒカルさん自身が母をリスペクトしている思いには到底及ばないのでしょう。
「讃える言葉が足りないから、花束を贈る」という発想が素敵ですね。
この「花束=音楽」は多くの人の元に届き、胸を打ったのではないでしょうか。

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さいごに
「花束を君に」でストリングスアレンジと指揮、ピアノを担当しているのはサイモン・ヘイル。
宇多田ヒカルさんの6thアルバム『Fantome』、7thアルバム『初恋』に参加している作編曲家&鍵盤奏者で、ジャミロクワイやシャーデーともコラボしています。
シャーデーは女性ソロシンガーではなくバンド名で、その鍵盤奏者のアンドリュー・ヘイルはサイモン・ヘイルの兄というつながりもおもしろいですね。