日本を代表する5人組ロックバンド・東京事変。
今回は東京事変が2004年9月8日に東芝EMIからリリースしたデビュー曲『群青日和』の歌詞を考察します。
筆者の思い入れが強い曲なので独自の解釈が過ぎるかもしれませんが、お許しください!
タイトル『群青日和』
「群青」とは一般的に「晴れの日の空」のようなさわやかな青色を指す色の名前です。
しかし『群青日和』には「豪雨」「水滴」「冷えていく」「12月」といった、タイトルとは反対の言葉が数多く登場。タイトルは「晴れ」を意味するのに、歌詞は「雨」「寒さ」を象徴する単語ばかり。
『群青日和』の大きな特徴は”タイトルと歌詞の対立的な構造”と言えるでしょう。
これは『群青日和』の主人公における重要なポイントになるので、読んでいけば次第に紐解かれていきます。
どうして「新宿」なのか?
『群青日和』の冒頭に歌われるのが「新宿は豪雨」という歌詞。
Cメロでは 新宿を代表する百貨店「伊勢丹」の単語も登場。
どうして「新宿」なのでしょうか?
椎名林檎は当初、楽曲や自身の傾向について「何系?」とインタビューされることに面倒くささを感じ「新宿系」と謳っていた時期もありました。そこから「新宿」を舞台にしたのかもしれません。
しかし「歌舞伎町の女王」「闇に降る雨」など多くの名曲に「新宿」という歌詞を入れている椎名林檎。
ネオン街やビル群、サラリーマンや学生が多く行き来し、日本社会の縮図がぎゅっと詰まった雑多な街「新宿」を舞台にし、何かを失ったり得たりしながら生き抜く人間の喜怒哀楽を証たかったのかもしれません。
『群青日和』歌詞考察
「新宿は豪雨」が意味するもの
『群青日和』の主人公は失恋した人物だと思われます。
失恋ではなくても重要な関係者を失った人であるのが想像できますが、今回は失恋した女性を主人公に見立てて考察していきます。
大事な存在を失った主人公が立つ舞台は新宿。
主人公はその喪失感から涙に暮れ「新宿は豪雨」の状態なのでしょう。つまりは心情の比喩だと言えます。
”今日が青く冷えてゆく東京”とは、主人公に寒気をもたらすかのような「人間の冷たさ」を示唆しているように感じます。主人公は好きな人に別れを告げられ、一人ぼっちなのです。
「東京」がモチーフになっているのは、傷つく人を放っておく人間の醜さや冷たさを象徴しているからかもしれません。
むしろ晴れている「群青色」の空であっても、主人公の心の中には豪雨が降るような失意が襲っているのは間違いありません。
自己を見失うほどの絶望
失恋に未練はつきもの。
主人公は心の中を巣食う未練心、絶望、自責などの気持ちにどうしても太刀打ちできません。
その成す術の無さから自己を見失ってしまいます。
人は究極に悲しい時、思考が停止してしまいます。
心は悲しさのあまり豪雨のような絶望を抱いているにもかかわらず、脳内は乾き切っている。
精神と思考が違った動きをする、そんな身体状況を「水」を介して秀逸に表現しているように感じます。
その男、ふしだらにつき
”「泣きたい気持ちは連なって冬に雨を齎している」”
極めて叙情的な表現ですが主人公は「あなたによってこれ以上にないくらい泣きたくなっている」と伝えたのではないでしょうか。
12月は最も雨が少ない季節。にもかかわらず「雨」=「涙」が多いのは、常日頃から相手に泣きたいような気持ちを抱かされていたのが予想されます。
それに対して、
”「嘘だって好くて沢山の矛盾が丁度善い」”
と、理路整然としない不誠実な回答をするのは、主人公を振った恋人。
この回答から分かるように、格好よく見えて実は中身が空っぽな論理をかましてくるような人物像が浮かび上がりますね。
主人公はもちろんこの恋人が好きでした。慰めの言葉が返ってくるのを期待したのでしょう。
しかし、主人公の大事な主張に対しても全くもって真摯に対応しないことで、主人公の中で「何か」がはち切れ、その関係性の断絶を願わざるを得なくなってしまいました。
好きな人への失望ほど、悲しいものはありません。
演技をしているのは誰
『群青日和』のサビ。
主人公は、机上の空論を述べてばかりで本質を突かずに表層的なことばかり言う恋人を一蹴します。
本当は主人公の気持ちを分かりながらも応答しようとしない、つまり、”当事者を回避している”のです。
ずっと気持ちを無視され続けた主人公の寂寞感と憤りの噴出です。
しかし、”あなただって”という言葉から主人公は自分自身に対しても”演技をしている”と言っているのではないでしょうか。
主人公は恋人を責めると同じく、自分自身も強く責めているのです。
何もしない人と、尽くしてきた人
別れた恋人は、主人公の気持ちに答えず何にもしませんでした。
当初出会った頃は主人公に対して興味を持って近づいてきたのかもしれませんが、付き合い出したら何もしない。つまりは「釣った魚に餌をやらない」状態だったのが予想できます。
主人公だけが恋人への強い愛情を持ち、時には演技してでも全力を尽くしてきたのでしょう。
それでも主人公の思いは実らず、冷たい男に捨てられてしまったのです。
思い出してしまうのはなぜ
冬の寒さの厳しさも相まって、突き刺すような痛みを胸に抱える主人公。
新宿伊勢丹から流れ来るあたたかな空気との狭間で、別れた恋人の肌身の温かさを思い出します。
あれだけ呆れかえって別れたにも関わらず、主人公の中には未練と恋心が残っているのでしょう。
人間はいつも「沢山の矛盾」を孕んでいますね。それはまさしく恋人が言っていた言葉でもあります。
ちなみに「新宿伊勢丹」があるのは新宿三丁目駅。新宿中心部から少し離れた所にある高級百貨店です。
「歌舞伎町」「新宿駅東口」などではなく新宿三丁目。どれだけ高級に着飾ることができる場所でも、人間の心は紛乱を起こし得るのだという主張ではないでしょうか。
未練と訣別
不誠実な恋人に対してどれだけ不満があっても、主人公は大きな後悔と未練を心に宿しています。
「あの人とうまくやるためにはどうしたら良かったのか」
「あの人はなぜ私を愛してくれなかったのか」
「私はどうしたら良かったのか」
数々挙がる疑問への「答え」は得られません。
一人になってしまった悲しみの理由を誰かになすり付け、その責任から逃れたいと願っています。
一方で、自分が悪かったのだと自責の念に苛まれ、”ちゃんと教育して叱ってくれ”と切実に叱咤を求めています。
ここで初めて主人公は、恋人への訣別を宣言しているとも言えるでしょう。
燃えてゆく東京の日
ラストの大サビです。
主人公の心はいまだ豪雨が降っているような絶望に襲われ、強い孤独から誰かの存在を猛烈に求める叫びが歌われます。
しかし冒頭の”今日が青く冷えてゆく東京”に異なり、”青く燃えてゆく東京の日”に変化している点に注目です。
主人公の心の中には完全に断ち切ることのできない一抹の後悔と未練があるけれど、新たな光ももたらされているのが示唆されています。「水」から「火」への変化と言っても良いでしょう。
ベース、ギターも転調し、明るい旋律に変化します。
失恋しても「東京」は変わらない。そんな現実が心を救うようなラストです。
実際「新宿」は誰もが通ったことのある道。それと同じように失恋は誰にも訪れることなのでしょう。
そんな励ましも通底しているように感じます。
1ヶ月無料で音楽聴き放題!
通常880円/月のAmazonMusicUnlimitedが今なら1ヶ月で体験可能!
この機会に聴き放題サービスをお試ししてみよう!
いつでも解約OK!
おわりに
東京事変のデビュー曲であり名曲『群青日和』の歌詞考察、いかがでしたか?
文学的な歌詞センスが散りばめられている『群青日和』。
様々な解釈ができますが、「新宿は豪雨」という強烈な叙情詩で始まる曲はなかなか存在しません。
東京事変の世界観を堪能したい方はぜひ『群青日和』から聴いてみてください!