椎名林檎さんの5thシングル「ギブス」(2000年1月)の歌詞の意味を考察します。
2ndアルバム「勝訴ストリップ」(2000年3月)の4曲目。
椎名林檎さんが作詞・作曲・編曲、亀田誠治さんが編曲、ベース演奏した「ギブス」の歌詞の意味を紐解きましょう。
ギブス 歌詞考察
ずっと此処に居ての真意
あなたはすぐに写真を撮りたがる
出典:ギブス / 作詞・作曲:椎名林檎
あたしは何時も其れを厭がるの
だって写真になっちゃえば
あたしが古くなるじゃない
「ギブス」は椎名林檎さんがデビュー(1998年5月)する前の高校時代に作ったバラードで、当時の彼氏に向けたラブソングになっています。
相思相愛のカップルですが、「写真を撮りたがる」彼氏(あなた)に対し、「撮られることを厭(いや)がる」彼女(あたし)という構図。
「彼氏のほうが彼女に対する思いが強く、彼女は彼氏に反発しているのか?」というとそうでもありません。
「いつでもどこでも、どのような表情や姿でも彼女を写真に収めたい」といった彼氏の考え方とは異なりますが、彼女は「写真になると自分が古くなる」ことに抵抗があるだけです。
現像されたネガフィルムやプリントされた印画紙が「物理的に古くなる」こと以上に、「写真に写った自分が過去の思い出になる」ことを嫌がっているのではないでしょうか。
裏を返すと「過去の自分ではなく、常に現在の新しい自分を見てほしい」と解釈できます。
あなたはすぐに絶対などと云う
出典:ギブス / 作詞・作曲:椎名林檎
あたしは何時も其れを厭がるの
だって冷めてしまっちゃえば
其れすら嘘になるじゃない
冒頭と同じパターンで、彼氏の「絶対」という口癖を嫌がる彼女が描かれています。
彼氏は「絶対に一生好き」とか、「絶対にずっと一緒にいよう」などと言いがちなのでしょう。
この件については彼女のほうが冷静なようです。
恋愛初期のようなドキドキ感はいつまでも続くものではなく、交際が長くなるとそれなりに落ち着くのではないでしょうか。
あるいは彼氏があまりにも彼女に対して盛り上がりすぎているので、その反動で「冷める」おそれがありそうだと心配しているのかもしれません。
don’t U θink? i 罠 B wiθ U
此処に居て
出典:ギブス / 作詞・作曲:椎名林檎
ずっとずっとずっと
明日のことは判らない
だからぎゅっとしていてね
ぎゅっとしていてね ダーリン
1番のサビです。
文字化けのような部分は「Don’t you think?(そう思わない?)」と「I wanna(want to) be with you(一緒にいたい)」のことで、「ネットスラング、発音記号、漢字」が混ざっています。
「写真」は「過去」、「絶対」という口癖は「未来」を象徴しているのでしょう。
過去の思い出に浸るのではなく、まだ訪れていない未来を心配するのでもなく、「ずっと一緒にいる現在のままでいよう」と提案しています。
「ずっと」には未来の約束が含まれるような気もしますが、「絶対を嫌がる無常観」や「誰にも未来は判(わか)らない」という当たり前なのに忘れがちな指摘を踏まえると「ずっと現在のまま」と解釈できそうです。
何より「ずっと」と「ぎゅっと」で韻を踏みたかったのでしょう。
とくに「ラブラブカップルのたわいない、いちゃつき」のような「ぎゅっと」という言葉遣いと、文字化けっぽい表記に注目が集まりがちですが、1stアルバム「無罪モラトリアム」(1999年2月)の収録曲「同じ夜」で「注目を集める欲望」について言及している点を踏まえると、その辺りは戦略のはずです。
それより「過去でも未来でもなく、現在に生きる」という人間の本質を要求しているところに椎名林檎さんらしい哲学を読み取ることができます。

四月の同じ日とは?
あなたはすぐにいじけて見せたがる
出典:ギブス / 作詞・作曲:椎名林檎
あたしは何時も其れを喜ぶの
だってカートみたいだから
あたしがコートニーじゃない
1番では「彼氏のポジティブな言動を嫌がる彼女」が描かれていましたが、2番では「彼氏のネガティブな行為を喜ぶ彼女」に変わりました。
実際に椎名林檎さんの当時の彼氏が好きだったグランジバンド「ニルヴァーナ」のボーカル&ギター「カート・コバーン」とグランジバンド「ホール」のボーカル&ギターかつ女優の「コートニー・ラブ」夫妻が引き合いに出されています。
ちなみに、3rdシングル「ここでキスして。」(1999年1月)の歌詞にはパンクバンド「セックス・ピストルズ」のベース「シド・ヴィシャス」が登場し、その恋人の「ナンシー・スパンゲン」に自らを重ねるような描写もあります。
don’t U θink? i 罠 B wiθ U
傍に来て
出典:ギブス / 作詞・作曲:椎名林檎
もっともっともっと
昨日のことは忘れちゃおう
そしてぎゅっとしていてね
ぎゅっとしていてね ダーリン
2番のサビです。
音楽史に刻まれた破滅的なカップルを引き合いに出しつつ、「昨日のことは忘れよう」と呼びかけています。
「昨日のケンカを忘れよう」という意味かもしれませんし、「お互いに音楽好きではあるけれども、破滅的な歴史は繰り返さないようにしよう」と解釈することもできそうです。
また四月が来たよ
出典:ギブス / 作詞・作曲:椎名林檎
同じ日のことを思い出して
「四月の同じ日」とは「カート・コバーンの命日、1994年4月5日」か「交際記念日など、2人にとって特別な日」でしょう。
「カートの命日(または2人の特別な日)を思い出すと、昨日のケンカなど、2人の嫌な過去は忘れることができる」という意味かもしれません。
ラストに1番のサビ(「ぎゅっと~ダーリン」なし)と2番のサビ(「don’t U θink?」なし)が繰り返されます。
過去にも未来にもとらわれず、今を生きることができるといいですね。

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さいごに
結局、歌詞には「ギブス」という曲名は出てきませんでした。
また、骨折した際などの患部の固定材料であれば「ギプス」が正解です。
椎名林檎さん自身によると、曲名にはとくに意味がないそうなので、深読みは控えておきましょう。
やはり高校時代にすでに「今を生きる」ことの大切さに気づいていたところが、椎名林檎さんの本質ではないでしょうか。