宇多田ヒカルさん「Forevermore」の歌詞の意味を考察します。
Forevermore 歌詞考察
誰が誰を愛してるの?
確かな足取りで家路につく人が
出典:Forevermore / 作詞・作曲:Utada Hikaru
溢れる大通りを避けて
壊れたイヤホンで耳を塞ぎながら
あなたの名を呟きかけた
イントロから力強いストリングスが印象的な「Forevermore」。
主題歌となった「ごめん、愛してる」は韓国ドラマのリメイク版で、主人公は幼い頃、母に捨てられ、裏社会で生きる岡崎律(長瀬智也さん)。
元ピアニストの母・日向麗子(大竹しのぶさん)、その息子のアイドルピアニスト・日向サトル(坂口健太郎さん)、そのスタイリスト・三田凜華(吉岡里帆さん)などが登場します。
男女の三角関係と、母子の三角関係が交差し、復讐を誓いながらも愛する人や母を求める愛の物語です。
冒頭の歌詞では「大通りを避け、喧騒(けんそう)が聞こえないように耳を塞(ふさ)ぎ、誰かの名を呟(つぶや)きかけた」様子が伝わってきます。
「にぎやかな雑踏をわずらわしく感じる気分」は想像しやすい日常的な感情といえるでしょう。
しかし、壮絶なドラマを重ね合わせると、帰る家があるのは当たり前とは限らず、「一般社会=大通り」から外れて暮らす人もいて、主人公の律が「耳を塞ぐ」ように「頭をかばう」必要に駆られた経緯も連想できるのではないでしょうか。
「確かな足取り」を体現するようなストリングスと呼応して、ボーカルも印象的なリズムを刻んでいますが、ストリングスはアクセントが前にずれる(食い気味の)頭打ち、ボーカルは後ろにずれる裏打ちというシンコペーションが効いています。
さらに「大通りを↑」や「名を呟き↑」と予想外に音程が上がる違和感も心地いいですね。
あなたの代わりなんて居やしない
出典:Forevermore / 作詞・作曲:Utada Hikaru
こればっかりは
裏切られても変わらない
語り手の「私」にとって「あなた」は「孤独を感じるときにふと名前を呟きそうになり、代わりが利かない存在」のようです。
律は母の麗子に「裏切られた」と感じ、復讐を企てるものの、「自分を産んでくれた母はひとりしかいない」という思いも芽生えます。
さらに紆余曲折があり、凜華のおかげで愛を知った流れを踏まえると、「あなた=母・麗子」と「あなた=大切な人・凜華」の両方が当てはまるでしょう。
あるいはドラマの登場人物それぞれに複雑な思いがあるので、主人公の律目線とは限りません。
幅広く解釈できる、汎用性の高い表現になっているため、リスナー自身を重ねることも可能なはず。
また、このパートからクリス・エイヴのドラムやエレピ(ウーリッツァー、ローズピアノ)なども入ってきて、グルーヴ(ノリ)が複雑になるところがおもしろいでしょう。
「イヤ(ホン)」と「居や(しない)」で韻を踏みつつ、「あな~た」や「これ~」などと必要以上に伸ばして、ビブラート(揺らぎ)が加わり、「裏切られても変わらない」と低音ボイスですごみを利かせる展開がドラマチックです。
愛してる、愛してる
出典:Forevermore / 作詞・作曲:Utada Hikaru
薄情者な私の胸を
こうも絶えず締め付けるのは
あなただけだよ
1番のサビ前半です。
ドラマでも実際に「ごめん、愛してる」というセリフが出てきましたが、「誰が誰にどのようなシチュエーションで言ったのか?」については伏せておきましょう。
「薄情者」なので謝らなければいけないわけですが、それでも「愛」を伝えずにはいられないところが泣けてきます。
その胸の内を端的にあらわしているのが、「締め付ける」というフレーズ。
「締め付け↓」でハラハラと音程が下がり、「る↑」で盛り返すように音程が上がる表現や、「締め付ける、のは」と小節をまたぐ譜割りになっているところも最高です。
Others come and go
出典:Forevermore / 作詞・作曲:Utada Hikaru
But you’re in my soul forevermore
いつまでもいつまでも
いつまでもそうよ
1番のサビ後半です。
曲名も含む英語の部分は「近づいては去る人もいるけれど、あなたは永遠に私の魂に存在する」といったニュアンスでしょう。
サビ前半ラストの「(あなただけだ)よ」から「よ・お・お」とリズミカルにつながり、「go、soul、forevermore、いつまでも、そうよ」の語尾の母音が「お段」で韻を踏んでいるところがこの楽曲のハイライト。
しかも「come and go」の「(カム)ア(ンドゴー)」、「in my soul」の「(イン)マ(イソー)」、「forevermore」の「(フォエバ)ア(モー)」、「いつまでも」の「ま」にさりげなくアクセントが置かれていて、こちらは「あ段」の母音でそろえられています。
英語も含め、わかりやすい言葉遣いで、これほどおもしろい音楽的な仕掛けが込められているのは驚異的。
クリス・デイヴのドラムと相まって、極上のグルーヴを堪能できるでしょう。
生まれ変わっても忘れない?
友達は入れ替わり服は流行り廃る
出典:Forevermore / 作詞・作曲:Utada Hikaru
私を私たらしめるのは
染み付いた価値観や
身に付いた趣味嗜好なんかじゃないと
教えてくれた
2番の冒頭は、1番のサビ後半の英語の部分がより具体的に日本語で表現されているようです。
「染み付いた」と「身に付いた」で韻を踏んでいるのはわかりやすく、さらに「(入れ)替わり、流行り、私、たらし(める)、価値(観)、趣味(嗜好)、じゃない」と語尾の母音が「い段」でそろえられています。
また、1番冒頭の「確かな足取りで~」と「壊れたイヤホンで~」、2番冒頭の「友達は入れ替わり~」と「染み付いた価値観や~」で、計4回同じフレーズがミニマルに繰り返されました。
ただ、それぞれのラストが「(大通り)を~↑避け~↓て~↑、(呟)き~↑かけ~↓た~↑、(私たらし)め~↑るの~↓は~↑、(教え)て~↑くれ~↓た~↓」と4回目だけ音程が変わっています。
「染み付いた価値観などが自分自身とは限らない」と「あなたが教えてくれた」おかげで、実際に「私」が変化した様子がサウンドでも表現されているといえるでしょう。
私の終わりなんて怖くない
出典:Forevermore / 作詞・作曲:Utada Hikaru
もしかしたら
生まれ変わっても忘れない
1番の「あなたの」が2番では「私の」、1番の「代わり」が2番では「終わり」というように、離れた同じパートですべて韻を踏んでいるという手の込みようです。
言葉の響きにおそろしくこだわっているのに、平易な言葉できちんと意味がある歌物語が紡がれているため、なぜか心地いいと感じつつ、そのすごさに気づかない人もいるかもしれません。
ヒップホップ的手法なので、宇多田ヒカルさんはブラックミュージックを踏まえていると理解するとおもしろさが倍増するでしょう。
「代わりがいるかどうか?」や「終わりがあるかどうか?」はドラマの核心でもあり、ネタバレにならないように普遍的な表現に昇華されているところも秀逸です。
愛してる、愛してる
出典:Forevermore / 作詞・作曲:Utada Hikaru
一人きりが似合う私を
今日も会えず泣かせるのは
あなただけだよ
2番のサビ前半です。
ここでは1番のサビ前半の「こうも絶えず」が「今日も会えず」に韻を踏みながら変化したところがぐっとくるポイント!
とくに「たえず」の冒頭の子音「た」が抜けて「あえず」に変わっているので、この抜け感が孤独やはかなさにつながっているとも考えられるでしょう。
言葉のリズムや響きでも、言葉そのものの意味以上の感情などが表現されているところが天才的です。
この後、1番のサビ後半が繰り返されます。
恋の後も
出典:Forevermore / 作詞・作曲:Utada Hikaru
いつまでもいつまでも
最後の瞬間を待たずとも
これだけは言える
「Aメロ→Bメロ→サビ」というJ-POPらしい構成で1番と2番が紡がれた後に続く、変化球のDメロ。
低音ボイスの「裏切られても変わらない」や「生まれ変わっても忘れない」がさらにすごみを増した感じです。
「恋の~、後の~、最後~の~」と伸ばした後に、「瞬間を待たず、ともこれだけ、は言える~」と早口になるところがドラマチック。
愛憎入り乱れ、命にかかわる壮絶なドラマなので、サウンドも劇的になっています。
Forevermore
出典:Forevermore / 作詞・作曲:Utada Hikaru
愛してる、愛してる
それ以外は余談の域よ
愛してる、愛してるのは
あなただけだよ
1番のサビ後半が後に続く、ラスサビです。
「ごめん、愛してる」というタイトルのドラマの主題歌なので、これほど「愛してる」と連呼することができるというか、ドラマでも「それ以外は余談の粋」といえるほど、このセリフにすべてが集約されています。
また「(フォエバ)ア(モー)」の「ア」には力強さ、「(あ~いしてる~、あ~いして)え(る~)」の「え」にははかなさが凝縮されていて、「それ以外は余談の粋」といいたくなるほどの破壊力ともいえるでしょう。
はかなくも力強さに満ちた愛の歌でした。
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さいごに
ネタバレにならないような配慮が随所に見られましたが、ドラマを観た人ははかなさと力強さの両面が描かれた意味が理解できるのではないでしょうか。
ドラマを離れても、さまざまな想像がふくらむ極上のラブソングでした。
さて、もしかしたら心臓の鼓動が表現されていたのかもしれないと思えるほど印象的なドラムを叩いていたクリス・デイヴ。
ジャズピアニスト、ロバート・グラスパー(ロバート・グラスパー・エクスペリメント名義)の『Black Radio』やネオソウルSSWディアンジェロの『Black Messiah』といった名盤にも参加している凄腕のジャズドラマーなので、いろいろ聴いてみてはいかがでしょうか。