シンガーソングライター・ビッケブランカさんの「FATE」は2021年8月に配信リリース、9月にCDリリースされた4thアルバム「FATE」の表題曲。
タイトルは「運命」という意味ですが、詩的な言葉で綴られた歌詞はいったいどのような物語が描かれているのでしょうか。
本名の山池純矢(やまいけ じゅんや)さん名義でビッケブランカさん自身が作詞・作曲した「FATE」の歌詞について考察します。

FATE 歌詞考察!
「よだか」とは?

「みちのく」の語源は「道の奥」で、「青森県・岩手県・宮城県・福島県」あるいは「東北地方」のこと。
「二本松」といえば、高村光太郎さんの詩集「智恵子抄」で描かれた安達太良山と阿武隈川がある福島県二本松市を連想する人も多いでしょう。
2011年3月の東日本大震災を耐え抜いた後、枯死してモニュメントになった「奇跡の一本松」は岩手県陸前高田市にあります。
ビッケブランカさんは愛知県西春日井郡豊山町出身なので、自身の故郷や実話が元になっているのではなく、作り込まれた歌物語が展開されているイメージです。
「東北地方に立つ2本の松の木から葉が落ち、目に刺さりそうになったが、どうにか回避できたので、このまま歩き続けよう。自分の影をばらまくように歩いていたら、雨が降ってきた」といったニュアンスでしょうか。
主人公は何者で、どのような人物なのか、どのような物語なのかはまだわかりません。
「影を~」という表現は、「まだ物語の本筋(実体)に入らず、雰囲気(影)を漂わせている状態」とも考えられます。

主人公は自分の「顔」について憂いているようです。
自分の「顔」が親に似ていることはわかっていても、子供みたいに「誰がこんな顔にしたの」と悪態をついてしまうのでしょう。
主人公は「夜になるとまた間違いを犯す」と自覚していますが、その「間違い」とは何なのか、具体的には描かれていません。
「しがらみ」とは「まとわりつくもの」、「世間のしがらみ」だと「煩わしい人間関係」になります。
つまり「まとわりつくもの」にまとわりつく「僕」に雨が降るという話です。
「僕」はビッケブランカさん自身で、「まとわりつくもの」は主人公。
ビッケブランカさんに似ている「誰か」を主人公にして、自分の姿と重ねているのかもしれません。
まだ謎めいていますが、ひとまず先に進みましょう。

「よだか」とは「ヨタカ、夜鷹」とも呼ばれる鳥のこと。
どうやら岩手県花巻市出身の宮沢賢治さんの童話「よだかの星」にインスパイアされた歌詞のようです。
童話の主人公「よだか」を歌詞の主人公にして、ビッケブランカさん自身を重ねているのでしょう。
「地味で醜い」と他の鳥から嫌われている夜行性の「よだか」が、夜になると虫を食べてしまうこと(間違い)に罪悪感を抱き、「焼かれても光になるので、そばに連れて行ってほしい」と太陽や星に懇願する物語です。
歌詞に落とし込むと、今夜やらなければいけないのは「光になる」こと、「君」は「星」でしょう。
自己犠牲を伴っても、光輝くために星を目指そうとして、ビッケブランカさんが自分を鼓舞しているようにも受け取れます。
あるいは「僕」も主人公の「よだか」で、「しがらみ~」は「虫が口に飛び込んでくる」様子を表していたのかもしれません。
結末はどうなった?

「よだかの星」では、醜い鳥が虫の命を犠牲にして生きること(存在の理由)に違和感を覚え(なんとなく違う)、星に転生します。
自分が生きるためには他の命をいただくしかありませんが、「よだか」や宮沢賢治さんは自分が存在すること自体に罪悪感を抱いたわけです。
その結果、転生すると決心した以上は「無理してでも笑顔でいよう」という意味でしょうか。

「また遭ってみたい」の部分を深掘りすると、「君」は童話に登場する「弟の川せみ」のような「身近にいる大切な仲間」とも解釈できそうです。
ビッケブランカさんは、洋楽みたいな多様なサウンドに邦楽らしい個性的な歌詞を乗せるという「他とは違う」アーティストといえるかもしれません。
その「他とは違う」ところこそ「存在の理由」であり、「よだか」の姿が重なります。
幅広く受け入れられないなら、たとえ焼かれようとも命がけで星に近づき輝くような「渾身の作を届ける」(戦う)というメッセージ。
星に生まれ変わってもまた会いたいのはリスナーでしょう。
ビッケブランカさんとしては、「他とは違う」楽曲がなかなか大ヒットにくい状況がもどかしいのかもしれません。

「よだか」の居場所は「星」でした。
ビッケブランカさんも、全身全霊を込めて制作した「FATE」という楽曲およびアルバムで居場所が見つかるといいですね。
運命の物語の結末は、星のように輝く居場所を見つけることでした。
リスナーも「FATE」を聴くことで、どこまでも高く飛べるのではないでしょうか。

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さいごに
「FATE」はオーストラリア出身のサイケデリックロックバンド「テーム・インパラ」(Tame Impala)みたいなドリームポップっぽいサウンドなのに、山本譲二さんの「みちのくひとり旅」を彷彿とさせる演歌のような歌詞で始まっているギャップがおもしろいですね。