今回は5月18日にリリースされた米津玄師さんのニューシングル「M八七」に収録されている「ETA」という曲を考察していきたいと思います。
米津さんは、この「ETA」という楽曲について、2020年の8月にリリースされたアルバム『STRAY SHEEP』に収録される予定だったが、入れるのをやめた曲だとインタビューの中で明かしています。
なぜ入れるのをやめたのか、そしてなぜ今入れたのかについてもインタビューを振り返りながら見ていきたいと思います。
『STRAY SHEEP』に収録しなかった理由
2020年にリリースされたアルバム『STRAY SHEEP』
「Lemon」や「馬と鹿」など米津さんの代表曲とも言える名曲が収録されています。
2020年といえば新型コロナウイルスの蔓延によって、大きな混乱が起きていた時期です。
その背景を思い浮かべながら、リリース当時のインタービューを振り返ってみましょう。
ーーアルバムのラストの「カナリヤ」はとても苦労したとおっしゃいましたが、この曲はどれくらいの段階でできたんでしょうか。
この曲を作っているときは、新型コロナウイルスによって世界的に混乱が蔓延している中で、いろんなミュージシャンがそれぞれいろんなことを発信していて、それを見ながら自分は何をするべきかを考えていたんです。(中略)
ものすごく些細な形かもしれない、もしかしてなんの意味もなさない戯言にしかならないのかもしれないけれど、それでも音楽を作るべきだと思った。
それで作り始めたのが「カナリヤ」です。でも、どういう形にするかはすごく悩みました。「カナリヤ」を作る前に新型コロナウイルスに対する曲をもう1曲作っていたんですよ。
ーーその曲はアルバムには入りましたか?
入っていないです。めちゃくちゃ暗い曲で、こういう方向性じゃない、これを世に出すことはできないと思った。
だからそれをボツにして、この世で生きていく人たちを肯定する曲を作ろうと。かといってただ肯定するわけではなくて。
自分の中にはいろんな怒りや失望が渦巻いているわけで、それも踏まえて肯定しなければならない。
「カナリヤ」はそう考えながら作っていったので、すごくエネルギーが要りました。
おそらくここで語られている「カナリヤ」の前のボツ曲というのが、今回リリースされた「ETA」であると考えられます。
言うなれば「カナリヤ」の兄弟のような楽曲ですね。
「カナリヤ」には、変化を恐れずに受け入れ、自分や愛する人達を大切に前を向いて生きていこうというメッセージが込められた曲だと解釈しましたが、その真逆を行く歌詞となると、どんな内容になっているのかますます気になります。
早速歌詞を見ていきましょう!
ETA 歌詞考察
前述の通り、この歌は新型コロナウイルスによって変わってしまった日常を嘆いている曲です。
まずはじめに説明しておきたいのがタイトルの「ETA」
Estimated Time of Arrival の略で到着予定日/到着予定時刻を意味します。
冒頭の「人のいない空港」という歌詞に繋がりますね。
ロックダウンや緊急事態宣言で人がいなくなってしまった空港。
飛ぶことのない飛行機の側で、自由に飛ぶことの出来る鳥は「いつまでもいつまでも道は続いていく」とつぶやきます。
たとえどんな事が起こっても時間は進んでいく、今が絶望的な状態であっても耐えて日々を過ごすしかないのだというメッセージにも聞こえます。
そんな先の見えない世の中で、多くの人が「あの日々にいつの日か戻れますように」と願ったことでしょう。
人々の願いが叶うのか、それは当時の米津さんにもわかりません。
一見いつもと変わらないような木漏れ日が差す平和な日々。
その平穏な日常を切り裂くかのように赤色のランプで走り抜けるレスキュー。
木漏れ日を青緑色と仮定すると、その反対色(補色)は赤色なので、ここでも対比されているのかもしれませんね。
モンタージュとは、フランス語で「組み立て」を意味する言葉で、映画や写真で多数の断片を組み合わせて一つの場面や写真を作ることを指します。
犯罪捜査で使われる似顔絵や合成写真などはモンタージュ写真と呼ばれています。
歌詞では「誰にも似てない」と歌われているので、このモンタージュ写真のことを指していると思われます。
誰かを探すために作ったモンタージュ写真が誰にも似てない。
つまりこれからどうして良いかわからない、手詰まりの状態を表しているのではないでしょうか?
コロナの影響が大きかった2020年には、トイレットペーパーやマスクの買い占め、デマ情報の拡散など大きな混乱が起こっていましたね。
そうした不安からくる混乱について歌っていると解釈しました。
そして主人公は「この先で待っている あなたへと会いにいく」
この先にいるあなたとは「あの日々にいつの日か戻れますように」という人々の願いを擬人化したもの、つまり、コロナが蔓延する前の日常を指していると考えました。
加えてモンタージュで探そうとした人物も、同じくここで示されているあなたなのではないでしょうか?
コロナによる混乱の中でも、きっとこの先に待っている “かつての日常” に会いに行く。
主人公の感じている微かな希望について歌われています。
「庭をきれいな花で飾りましょう」「安らかな夢で眠れますように」という歌詞から、コロナで亡くなってしまった人のお葬式の場面を歌っているように感じました。
「子供たち」=「何故亡くなってしまったのか理解できていない存在」
そう考えると、コロナの暴力的な力によって為す術もないままお別れをするしかなかった(どうすることも出来なかった)大人も、この歌詞で言う「子供たち」に当てはまるのではないでしょうか?
ウイルスという脅威的な存在を前にして、立ち尽くすしかない絶望感が込められているように感じました。
ここで、タイトル「ETA」が登場します。
完全に機能を停止した空港で飛び交うETA(到着予定時刻)は、人類の必死な抵抗の虚しさを表しているように感じました。
自然の脅威の前では、どれだけ頑張っても人間は無力だ。
諦めて見えないふりをしたいけれど、それでも「いつまでも道は続いていく」
今は夢の中にいるんだ、と現実逃避してしまいたくなる気持ちも分かります。
人類の救いようのない絶望感が伝わりますね。
「泥濘」とはぬかるみのこと、ぬかるみにハマって身動きの取れない状態にあることが分かります。
さらに注目したい歌詞が「味のしないビーフシチュー」という部分です。
なぜ、濃い味であるはずのビーフシチューの味がしないのか?
主人公はコロナに感染してしまったのではないかと考えました。
コロナウイルスの症状、後遺症として味覚障害が挙げられます。
人類の抵抗も虚しく脅威的な力で多くの人々を死に至らしめたコロナに、ついに自分がかかってしまった。
今でこそワクチンの普及で落ち着きましたが、ワクチンの開発前は感染に対する恐怖も大きかったはずです。
延滞中の「手紙」の内容は、知り合いからのコロナかかってない?大丈夫?のようなメッセージなのではないでしょうか?
初期の頃はかかってしまった人に対する風評被害も大きく、感染しても報告するのを憚ってしまう人も多かったと思います。
そうした背景もあり、知り合いからの手紙(メッセージ)に返信できないでいるのではないかと感じました。
主人公がコロナに罹ってしまったと考えると続く「この先で待っている あなたへと会いにいく」という歌詞は前半とは真逆の意味を持つのではないかと考えました。
前半の “あなた” はコロナが蔓延する前の日常を擬人化したある種の希望であったわけですが、ここでコロナになった主人公が会いに行く “あなた” とは “死” を指しているのではないでしょうか?
コロナに罹ったことで、その先に “死” を意識するようになった主人公。
米津さんがインタビューで “暗すぎるのでボツにした” と答えていることを踏まえると、このように解釈することも出来るのではないかと感じました。
サビは繰り返しになりますが、曲の中では
「さあ起きて 子供たち」=「wake up girlfriend , wake up boyfriend」
「もうおやすみ 古い友達」=「good night old friend , good night best friend」
と歌われています。
英語の歌詞が、歌詞カードでは日本語で表示されているので驚いた方も多いのではないでしょうか?
歌詞カードにはもう一つ注目したいポイントがあります。
縦読みしていくと
ーーーーーーー
さぁ
今
も
ど
る
ーーーーーーー
というメッセージが浮かんできますね。
わざわざ「るるる」を歌詞に表示していることを踏まえると、このメッセージ説は有力なのではないでしょうか?
解決の糸口が見えず、混乱していた2020年のアルバムには入れられなかったけれど、withコロナの生活が普及し落ち着きを取り戻した今だからこそ公開したのだと思いました。
絶望に打ちひしがれる救いようのない歌のように思えますが、「さあ今もどる」という希望を込めたメッセージが隠されている素敵な楽曲でした。
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さいごに
いかがでしたか?
一つの解釈として楽しんでいただけると幸いです。
米津さんの今後の活躍からも目が離せませんね。