Creepy Nutsのシングル「堕天」（デジタル：2022年7月、フィジカル：2022年9月）の歌詞の意味を考察します。
TVアニメ「よふかしのうた」（2022年7月～）のオープニングテーマとして書き下ろされました。
R-指定さんが作詞、DJ松永さんが作曲した「堕天」の歌詞の意味をチェックしましょう。
アニメの概要
アニメ「よふかしのうた」の原作は、コトヤマさんの同名漫画。
その漫画名は、Creepy Nutsのデジタルシングル（2018年12月）かつ1stミニアルバム（2019年8月）の表題曲かつラジオ番組「オードリーのオールナイトニッポン 10周年全国ツアー」テーマソングの「よふかしのうた」に由来するという経緯があり、アニメのエンディングテーマにも起用されました。
漫画およびアニメの主人公は、女性が苦手で不登校、不眠症になった中学2年生の夜守（やもり）コウ。
ある夜ひとりで外出したところ、吸血鬼の七草（ななくさ）ナズナに出会って「吸血鬼になりたい」と思い、そのために必要な「吸血鬼に恋して、血を吸われる」という条件をクリアしようと夜ふかしする物語です。
堕天 歌詞考察
堕天の意味
あの日林檎の木の下 共犯で
出典:堕天 / 作詞:R-指定 作曲:DJ松永
踏み越えてみた境界線
すぐにblack out「あ、お怒りで…」
追い立てられてこんな次元へ
俺とした事が…
俺如きですら…
俺に限っていや、まさかね…
君のせいにした
秘密を手にした
イチジクの葉が右左
ヒップホップには「実体験やリアルな心情を歌う」という美学がありますが、「堕天」の歌詞ではフィクションの手法がとられていて、旧約聖書の「創世記」に登場する、最初の人間「アダムとイブ」の物語になぞらえているようです。
「エデンの園」で、イブは「蛇（サタン）」に、アダムはイブにそそのかされて「知恵の樹」になる「禁断の果実」を食べてしまい、裸だったことが恥ずかしくなり、「イチジクの葉」で体を覆います。
その「禁断の果実」については諸説あるものの、「林檎」を思い浮かべる人も多いでしょう。
「右左」には「男女」の違いが重なるようです。
このように独自の歌物語が展開されていますが、アニメの「人間と吸血鬼」の違いも想像できるようになっています。
あっという間、目が醒める
出典:堕天 / 作詞:R-指定 作曲:DJ松永
かと思えば空に落ちて行く
なんというか、やめられぬ
もうひと齧り…again
「空に落ちる」という表現が、曲名の「堕天」につながりそうですね。
キリスト教で、神に背いた（堕落した、空から落ちた）天使（神の使い）のことを「堕天使」といい、「悪魔（サタン）＝堕天使」とされているので、「堕天」は「悪魔落ち、闇落ち」といったニュアンスになるでしょう。
「アダムとイブが林檎を齧（かじ）って、男女の違いを知り、堕天使になった」ようでもあり、アニメに登場する「人間の体を齧り、血を吸う吸血鬼」を重ねることもできそうです。
fallin’ falling
出典:堕天 / 作詞:R-指定 作曲:DJ松永
螺旋状に堕ちてゆく摩天楼に
今 fallin’ falling
二人ぼっち気づかない
カーテンコールにも
(yeah yeah yeah yeah yeah)
どこまでも
(yeah yeah yeah yeah yeah)
この身任せて
いつの間に傷が埋まってくyeah…
1番のサビです。
冒頭から「共犯で」と「境界線」などの韻が踏まれていましたが、「螺旋状」と「摩天楼」のライム（韻）もパンチライン（印象に残るフレーズ）でしょう。
「ぐるぐる回りながら、天（に届くような高層建築）に落ちる」という意味で、「空に落ちて行く」ともども、上下逆さまになっているところがおもしろいですね。
「傷が埋まる」を「心の傷が癒される」と解釈すると、歌物語の「アダムとイブ」っぽい2人やアニメの「コウ（人間の男性）とナズナ（女性の吸血鬼）」の距離が縮まっているように感じられます。
しかし「コウの体の傷が回復する」と捉えると、人間から吸血鬼へと落ちていき、「半吸血鬼」状態になっているのかもしれません。
ごった煮ぶりが圧巻
そこじゃ何から何までごった煮で
出典:堕天 / 作詞:R-指定 作曲:DJ松永
鬼も仏もおんなじ目
全てshut out どうかしてる？
俺らハナから大真面目
ふりほどいて来た
うしろ指ですら
むしろ追い風さ まだ足んねぇ
蛇に睨まれた
歴史の徒花
エデンにはまだ「空室あり」
吸血鬼いえば、中国のキョンシーも連想できつつ、一般的にはキリスト教圏のバンパイアの印象が強いでしょう。
そのため「アダムとイブ」の物語を引き合いに出したと考えられますが、「鬼」と呼べば日本の妖怪っぽくなり、対極の存在として「仏」を挙げると仏教的世界観が広がります。
このように「ごった煮」にしたうえで、「蛇（サタン）」から「エデンの園」に戻るところが絶妙です。
しかし、「咲いても実がならない花」が転じて「見せかけだけで中身が伴わない」とか「無駄な苦労」といった意味で使われる「徒花（あだばな）」が挟まっています。
要するに「歴史的な文脈で解釈しようとすると無駄に終わる」という忠告でしょう。
唐突に「エデン」という名前のホテルにはまだ「空室あり」と下ネタが放り込まれたようでもあり、「恋はまだ実っていない」というアニメの重要なポイントが表現されているようにも受け取れそうです。
あっという間 染められる
出典:堕天 / 作詞:R-指定 作曲:DJ松永
かと思えば熱が醒めていく
ちょっと待ってその前に
もうひと雫… again
「雫」は下ネタでしょうか、それとも吸血鬼がすする「血」でしょうか。
「染まる」のも「熱が醒める」のも、「恋と血」のダブルミーニングになっているようです。
この血が冷めないうちに飲み干して
出典:堕天 / 作詞:R-指定 作曲:DJ松永
眩暈するほど気取って
取り留めない出会いに色付けて
この目が醒めないうちに憑り込んで
狭い空ごと突き抜けてfalling…
蜜の味二人ハマってくyeah
「… again」という合いの手が入りつつ、1番のサビが2回繰り返された後に続くラストです。
まず、意味的には「熱が醒める、血が冷める、目が醒める」という三段オチで、「吸血鬼になるために、恋するという条件に挑む、初恋知らずの夜ふかし」が表現されています。
さらに、「冷めない、取り留めない、醒めない」や「眩暈、狭い」など、怒涛のライムが炸裂しているところが圧巻です。
この「狭い」は、アニメ第4夜「せまくない？」に通じるところがあるかもしれません。
恋を知らない中学2年生のコウにとって、「蜜の味」は「林檎」と「血」のどちらになるでしょうか。
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さいごに
アダムとイブ、吸血鬼、下ネタとまさに「ごった煮」の解釈が可能な歌詞になっていました。
アニメや漫画の展開が進むと、さらに何重にも深読みすることができるかもしれませんね。
