宇多田ヒカルさん「誓い」の歌詞の意味を考察します。

誓い 歌詞考察
永遠の誓い日和
運命なんて知らないけど
この際 存在を認めざるを得ない本当にこんな私でもいいの ねえいいの
出典:誓い / 作詞・作曲:Hikaru Utada
あんまり期待させないでほしいよ
スクウェア・エニックスとディズニーのコラボによるゲームソフト(アクションRPG)「キングダム ハーツIII(KINGDOM HEARTS III、KHIII)」のエンディングテーマとして書き下ろされた「誓い」。
その英語バージョンは「Don’t Think Twice」、オープニングテーマは「Face My Fears」など、「KH」シリーズすべてのテーマソングを宇多田ヒカルさんが手がけています。
ただ、宇多田ヒカルさん自身は「KH」シリーズをプレイしていないそうです。
ゲームもディズニーも好きなのにあえてやっていないのは、ネタバレを避けるため、楽曲制作の自由度を高めるためなど、音楽家としてのこだわりがあるのでしょう。
「誓い」は1番の語り手が「私」、2番の語り手が「僕」と変化していて、それぞれ「KH」シリーズのヒロインの少女カイリ、主人公の少年ソラになぞらえることもできますが、ゲームの世界観を反映した独自の物語として幅広く考察していきます。
冒頭の「運命」という歌詞は「KH」のテーマソング「光」とリンクしているようですが、いずれにしても「これまで運命を信じていなかった女性が、誰かに言われた言葉によって、運命を受け入れようとしている」様子が伝わってくるでしょう。
今日という日は嘘偽りのない
出典:誓い / 作詞・作曲:Hikaru Utada
永遠の誓い日和だよ
綺麗な花も証人もいらない
同じ色の指輪をしよう
曲名の「誓い」はどうやら「結婚」をあらわしているようです。
しかし、一般的な結婚式で必須の「綺麗な花」も「証人」も不要で、「同じ色の指輪」だけを必要としています。
「結婚式を挙げなくても(正式な結婚でなくても、大勢に祝福されなくても)構わないから、2人でずっと一緒にいると誓おう」と「今日」決意したのでしょう。
「2人だけの結婚の誓い」として幅広く解釈できるほか、「KH」の世界観を踏まえた「誓い」として想像を膨らませることもできます。
悔しくて仕方がない
ダサいくらいしがみついたまま眠りたい 毎日約束はもうしない
出典:誓い / 作詞・作曲:Hikaru Utada
そんなの誰かを喜ばすためのもの
ここから2番です。
一般的な言葉として巧みに歌詞に溶け込んでいますが、「眠り」や「約束」は「KH」の重要なキーワードといえるでしょう。
語り手の「僕」はおそらく「約束」に苦い思い出があり、それでも「過去を乗り越えて安らぎたい」と考えているようです。
今言うことは受け売りなんかじゃない
約束でもない 誓いだよ
嘘つきだった僕には戻れない
朝日色の指輪にしよう胸の高鳴りを重ねて踊ろうよ
出典:誓い / 作詞・作曲:Hikaru Utada
今を生きることを祝おうよ
女性の「嘘偽りのない誓い」に対して、男性は「嘘つきだった僕」と応じているので、かつて2人は「期待外れの約束」を交わしたことがあるのでしょう。
そのため「約束」ではない「誓い」に重要な意味があり、女性の「同じ色の指輪」という提案に対して、男性は「朝日色の指輪」と返答しました。
2人はこれから前向きに一緒に生きていこうとしているようです。
深い意味はない?
たまに堪えられなくなる涙に
出典:誓い / 作詞・作曲:Hikaru Utada
これと言って深い意味はない
ただ昔を突然思い出し(ああ泣きたい)
開かれたドアから差し込む光
これからもずっと側にいたい
選択肢なんてもうとっくにない
歌物語としては「昔を思い出して突然泣きたくなることもあるけれど、光のようなあなたと一緒にいたい。迷う余地はない」という、そのままの意味でしょう。
とくに「深い意味」はありません。
ただ、「昔を思い出す」と「KH」のテーマソング「光」や「KH」シリーズとつながる内容になっていて、「開かれたドア」も「KH」シリーズ、「選択肢」はRPGそのものに関連があるという遊び心にあふれています。
今日という日は過去前例のない
出典:誓い / 作詞・作曲:Hikaru Utada
僕たちの誓い日和だよ
綺麗な花も証人もいらない
同じ色の指輪をしよう
さて、歌詞は奥行きや遊び心がありつつ「深い意味はない」とのことなので、この楽曲の本題ともいえるリズムの話に移りましょう。
端的にいうと「誓い」は「リズムお化け」や「変態的リズム」(誉め言葉です)といってリズムマニアが大喜びするほど「すごい楽曲」。
宇多田ヒカルさん自身はシンプルな6/8拍子のつもりだったそうですが、アクセントの置き方によって4/4拍子にも聴こえるポリリズムになっていて、スウィング、シンコペーション、レイドバックなどがてんこ盛りになっています。
何より、ヒップホップのプロデューサー、J・ディラのレイドバックする打ち込みビートを、ネオソウルの代名詞ディアンジェロのバンドでピノ・パラディーノ(ベース)と共に生ドラムで体現したクリス・デイヴが参加。
ボーカルのリズムだけでもトリッキーなのに、クリス・デイヴのドラムとルーベン・ジェームスのピアノも遅れたり速まったり、ぐらんぐらんに揺れるグルーヴ(ノリ)になっているところが醍醐味です。
Kiss me once, kiss me twice
一度じゃ足りない
Kiss me once, kiss me twice
あなたを下さいKiss me once, kiss me twice
出典:誓い / 作詞・作曲:Hikaru Utada
Kiss me three times
お願い
Kiss me once, kiss me twice
あなたを下さい
歌詞の考察に戻ると、英語版の「Don’t Think Twice」では「二度考えないで(考えすぎないで)」と2人の関係はうまくいっていないのに、「誓い」では「一度、二度、三度キスして」とハッピーエンドになる違いがおもしろいでしょう。
しかも「(トゥ)ワイ(ス)、(スリー)タイ(ムス)」は、これまでさんざん繰り返されてきた「~ない、~たい」および「誓い(ち・かい)」と、母音の「あい」で韻を踏んでいます。
他にも「この際(さい)、存在(ざい)、期待(たい)、嘘偽り(わり)、ダサい(さい)、毎日(まい)、朝日色(さひ)、高鳴り(なり)、涙(なみ)、深い(かい)、昔(かし)、思い出し(だし)、泣きたい(なき・たい)、差し込む(さし)、光(かり)、同じ(なじ)、足りない(たり・ない)、下さい(さい)、お願い(がい)」と「あい=愛?」だらけでした。
要するに「誓い」に「深い意味」はなく、「あい」の母音など、言葉の響きやリズムに主眼が置かれた楽曲だったことになります。
日の昇る音を肩並べて聞こうよ
出典:誓い / 作詞・作曲:Hikaru Utada
共に生きることを誓おうよ
歌物語としても「同じ色の指輪→朝日色の指輪→日の昇る音」という結末で、すべては「音楽」に集約されました・
「喜ばすためのもの(もの)、踊ろうよ(ろうよ)、生きること(こと)、祝おうよ(おうよ)、聞こうよ(こうよ)、誓おうよ」は、母音が「おお」の「音(おと)」につながるとも考えられます。
これからも「愛」と「音」の詰まった「誓い」と「共に生きることを誓いたい」ものですね。

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さいごに
歌詞の考察記事なので意味を主軸にしましたが、「誓い」は(というか、宇多田ヒカルさんは常に)歌の譜割り(ボーカルのリズム)も極上のグルーヴを醸し出しています。
imdkm「誓い」のリズム解釈とフロウ
まず「~ない」や「誓い」にはエコーもかけられているので、アクセントが置かれていることに気づきやすいでしょう。
さらに「(誰か)を喜ばすためのもの」で急に速くなったり、「たまに堪えられなくなる涙に~」のパートでは3拍子のワルツのようなラップ調になったり、心地いい違和感を覚えるはず。
Don’t Think Twice
歌の譜割りでは「お~なじいろ~のゆ~び、わ~をしよお~」の区切り方やリズムが突出しているでしょうか。
1番の冒頭は「運命なんて知らない、けどこの際」と「知らないけど」が小節をまたぐつなぎ方なのに、2番の冒頭では「悔しくて仕方がない、ダサいくらい」と普通のつなぎ方で、すかされるなど、音楽的におもしろいポイントだらけです。
母音だけでなく子音の響きやポストプロダクションにもこだわっているなど、パズルを当てはめるように張り巡らされた無数の仕掛けがあるのに、幅広く受け入れられるディズニーらしい壮大なポップミュージックに仕上がっているところが宇多田ヒカルさんの真骨頂といえるでしょう。