今回は2020年8月5日にリリースされた5枚目のアルバム「STRAY SHEEP」に収録されている「カムパネルラ」の歌詞考察をしていきます。
「カムパネルラ」は、米津玄師さんが作詞・作曲を手掛けました。
では早速歌詞の考察を始めていきましょう。

カムパネルラ 歌詞考察
童話『銀河鉄道の夜』について
宮沢賢治の童話作品である『銀河鉄道の夜』から派生したと言われている本楽曲「カムパネルラ」。
簡単に『銀河鉄道の夜』についてご紹介しましょう。
作品の主な登場人物は、ジョバンニ、カムパネルラ、そしてザネリです。
ジョバンニは、学校の同級生達にからかわれている貧乏な家の孤独な少年です。
楽曲タイトルにもなっているカムパネルラは、ジョバンニの親友で、裕福な家庭の子どもです。
ザネリはジョバンニやカムパネルラの同級生で、いわゆるいじめっ子。いつもジョバンニをからかいます。祭りの日に川に落ちるも、カムパネルラに助けられて命拾いをします。
ストーリーですが、いつも同級生から家族(父親が漁に出て不在)のことでからかわれ、貧しい家庭を助けるために仕事をしながら学校に通っているジョバンニを軸に描かれています。
ケンタウル祭の夜にジョバンニとカムパネルラは銀河を巡る銀河鉄道の旅に出ます。しかし途中でカムパネルラは消えてしまい・・・といったあらすじとなっています。
死者を悼む

冒頭においての登場人物は、主人公である「わたし」と「君」(カムパネルラ)の二人です。
主人公が「君」に向けて呼びかけるような歌詞となっているのが特徴的です。
童話『銀河鉄道の夜』作中で、カムパネルラは命を落とします。そこを踏まえて歌詞を見ていくと、そこはかとなく別れや死といったものが歌詞全体に漂っているのが感じ取れるかと思います。
「リンドウの花」とありますが、この花には「悲しんでいるあなたを愛する」や「あなたの悲しみに寄り添う」といった花言葉があるようですし、童話の中にもこの花は登場します。
「リンドウの花」以外にも「君を残して」、「戻らないあの日」とあり、主人公と「君」が離れてしまっていることがわかります。
主人公は、「君」がいなくなった後の世界=此岸(しがん=現世)は変化していると彼岸(ひがん=あの世)に行ってしまった「カムパネルラ」=「君」=死者に対して語りかけています。
生き残っている側と死んでしまった側の対比が浮かび上がってきます。

ここでははっきりと「わたしはまだ生きてゆくでしょう」とあります。
また「終わる日まで」「君を憶えていたい」と続いており、生と死という対比が更にくっきりと浮彫になっています。
主人公の「君」を悼む気持ちが「寄り添うように」「憶えていたい」といった歌詞から滲み出ているようです。
寂しさと罪悪感

2番でも「そこは豊かか」と死者に向けて問いかけています。
「タール」「夏の打火」「真白な鳥」という言葉は、童話の中の「石炭袋」や「蠍」「白鳥」といった言葉を連想させます。
「波打ち際にボタンが一つ」「君がくれた寂しさよ」という歌詞は、中原中也の「月夜の浜辺」という詩の一節のオマージュともとれるものです。
この「月夜の浜辺」という詩は、宮沢賢治の詩「永訣の朝」が由来である「永訣の秋」(詩集『在りし日の歌』第二部)という死をモチーフにしたものです。
歌詞の「波打ち際」はこの世とあの世との境目のようなものと解釈できそうです。
波が寄せたり引いたりするように、この世とあの世の間を行ったり来たり想いを馳せるような印象です。
この世に残された人間が死者を想う様が見て取れ、そこはかとなく「寂しさ」が感じられます。

ここでも「黄昏」「君がいない日々」「独り」と、残された側の「寂しさ」が描かれています。
更に「癒えない傷」「過ち」とあり、生きている側にどことなく罪悪感のようなものが垣間見られます。
童話の中ではジョバンニやザネリが生きている側で、カムパネルラは死者という立場です。
カムパネルラはザネリを助けて命を落としたので、ザネリには想像するに罪悪感があるのではと考えられます。
また残された二人はやはり「寂しさ」を感じずにはいられないと思われますので、童話と歌詞は非常にリンクしていると言えるでしょう。
生きてゆく

ここでは「光」「輝くクリスタル」「輝き」といった言葉が見受けられます。
童話の中でも星座の描写が出てきており、童話と歌詞とのリンクがここでも見られると言えるでしょう。

「わたしの手は汚れてゆくのでしょう」とありますが、「汚れ」こそが生きていくということの証ではないかと思えます。
人が生きていく中、様々な経験をし手を汚さずにはいられない時も多々あり、綺麗なままでいられないものです。
様々のものを背負いながらも「わたしはまだ生きてゆける」と非常にポジティブな感情が描写されているのが印象的です。
死や罪を意識しながらも、前向きに生きていこうとしている主人公の姿が目に浮かぶようなラストとなっています。

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さいごに
本楽曲「カムパネルラ」は、別れや死を全面に出すことにより、生きることがより鮮明に浮かび上がってくる独特の世界観となっています。
宮沢賢治や中原中也といった文学的なアプローチも垣間見られ、非常に技巧的かつ美しい歌詞が特徴の本楽曲「カムパネルラ」。
本楽曲を手掛けた米津玄師さんの今後の曲にも注目したいですね。