目次
2007年9月26日にリリースされた東京事変3枚目のアルバム『娯楽』に収録された『某都民』の歌詞を考察します。
珍しく浮雲、伊澤一葉が椎名林檎とともにボーカルを務めた作品です。色気満載の楽曲です。
『娯楽』の制作背景は、椎名林檎が「4人のメンバーをプロデュースしてその能力を証明する」というものでした。その中で制作されたのが『某都民』。
ギターやピアノがカチカチ奏でられ中毒性のある楽曲ですが、その歌詞はとても深いものでした。東京を舞台にするのが多い東京事変ならではの視点がふんだんに詰まっています。
一体どのような歌詞なのでしょうか?考察していきます!

『某都民』歌詞考察
情報化社会で狂乱する日本国民

この楽曲に登場するのは”淑女(LADY)”と”紳士(MEN)”。
特定の誰かというよりも、現代にあまた存在する多くの女と男が題材のようです。タイトルの通り「某(それがし・なにがし)」といったところなのでしょう。
「某都民」ということは、舞台は東京でしょうか。
雑多な街を行き交う匿名の大勢の人が目に浮かびます。
いくら男と会っても満足しない女性、女から言い寄られるのだけを待っている男性。
自尊心を無くし、快楽に溺れていく様子が映し出されています。
「日本はいつからそんな国になってしまったの?」
そんな疑問と呆れの思いが込められているように感じます。
”媒体(DJ)”と記されていますが、一般的に「媒体」は「メディア」ではないでしょうか?
噓か誠かわからないまま大量に流されるメディア情報によって、人々は狂乱に陥っています。
そんな世の中を皮肉しているようです。
冒頭から浮雲のハイトーンボイスが響き、今までにない感触を味わえるのが魅力です。
両極端な国民性

「誰にも迷惑かけないように」と思って無理をした経験はないでしょうか?
日本人は我慢してしまう性質があると言われて久しい昨今。
日本に脈々と続くこうした性質、それを無意識に育成してしまう教育への文句が隠されていそうです。
冒頭の狂乱した状態と、我慢しがちな国民性。
両極端の性質を持っている日本人を示唆しているようです。
どうしようもない東京

再び登場するのは某都民の男女たち。
何をしても飽き足らない女と、女が口を閉ざすと機嫌が悪くなる男。
誰もが他力本願で、満たされない心を他者に埋めてもらおうとしています。
”大凡微熱持つ群衆(CITY)”とは、興味のあることにだけ熱を持ち、それ以外には興味を持たない人々を指しているのでしょう。
今や隣の家に誰が住んでいるのかも知らない都会人。
都合よく見て見ぬふりする現状を憂いているようです。
しかしそうした煮え切らない状況が渦巻いているのが、日本の中心地、東京なのです。
よくよく考えてみれば、日本の未来は暗いような気もしなくもありません。
アイデンティティを探る

ここでは自分のアイデンティティについて語られます。
「某都民」と呼ばれてしまうのは、個人の替えが効くということ。
そうした恐怖を払拭するために、人は第三者の目に映る自分を何度も確認します。
「自分は役に立っているか?」
「誰かに好かれているか?」
そのような問いを繰り返さざるを得ません。
皆がそうした葛藤を抱えているにもかかわらず、他人から同じ問いをぶつけられると嫌悪感が生まれてしまうことにも言及されています。
ぐちゃぐちゃと自分のアイデンティティについて考えている間に、”何方でもいい”とやけっぱちになっていきます。
そして結局、答えは出ないままなのです。
登場するのは「音楽」

自分自身が誰なのかわからないまま混乱したところに登場するのは「音楽」。
”さあ演奏(STRIKE-UP)”と心を鼓舞するしかありません。
誰も「あなた」を知らないし、誰も「私」を知らない。
そんな夜は”恥を曝せ”とアドバイス。
「失敗しないように」と生きてきたおとなしい私たちを「音楽」を介して解放しようとしているのでしょう。
それは東京事変の在り方そのものかもしれません。
麻痺を取り戻せ

刺激的なものであふれる現在。
女も男も、あらゆる刺激を受けすぎて、心身ともに麻痺してしまっている状態が描かれています。
ここで言う”忘我(ECSTASY)”とは
・快楽の果てに絶頂に達すること
・刺激を受けすぎて気持ち良さを感受できないこと
を指しているのではないでしょうか?
そうした麻痺を治すのが、”事変(MUSIC)”だと誘われます。
本当の快楽を得るためには

壮大な芸術品や景色を見たときに、心が躍り鳥肌が立つことがありますよね。
あらゆるものによってもたらされる快楽は”意思と肉体”の両方が必要です。
しかし麻痺を起こしている現代人は両者がリンクせずに、せっかくの快楽を無駄にしています。
便利で簡単に快楽を手に入れられるようになった今、本当の意味での快楽を獲得するための指南がここでは綴られます。
”色気の仕掛けは簡単で円熟と技術と才能よ”
時間をかけ、じっくりと自信を磨くこと。
その大切さを改めて強調しているのでしょう。
某都民同士をつなげるのは何か

ここでショータイムが始まります。
ラストに向けて確固たる意思が感じられますね。
「某都民」であり続ける私たちは、もういっそ全く関係のない人同士だと腹を括る必要もあります。
しかし無関係の私たちがつなげる一つのものは「音楽」です。
お互いの名前、アイデンティティを知らなくても、「音楽」すらあれば私たちは交わることができるのだと主張されています。
音楽で突破していく

”炎奏”・”艶奏”という言葉が巧みに造られ美しいラスト。
音楽を通じて交わる私たちは、一種のエクスタシーを感じることができるのです。
”答え”・”踏絵”は、自分が何者であるのかを証明するもの。
しかしもうそんなものは求めていません。
「たとえ某都民であろうとも音楽があれば良いのだ」
アーティストである東京事変が、今の日本に感じる葛藤を突破していくラストです。

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おわりに
いかがでしたか?
演奏そのものにも確実に魅せられる『某都民』。
一方で、紐解くと極めて皮肉めいたメッセージも込められているのも、東京事変の楽曲ならではのもの。
椎名林檎はもちろん、浮雲、伊澤一葉ファン必聴の楽曲、ぜひ聴いてみてください!