ヨルシカ「爆弾魔」の歌詞の意味を考察します。
2ndミニアルバム「負け犬にアンコールはいらない」(2018年5月)と3rdアルバム「盗作」(2020年7月)の収録曲。
n-bunaさんが作詞・作曲・編曲した「爆弾魔」の歌詞を紐解きましょう。

爆弾魔 歌詞考察!
これは安っぽい夢?
死んだ眼で爆弾片手に口を開く
爆弾魔 / 作詞・作曲:n-buna
さよならだ人類 みんな吹き飛んじまえ
泣いた顔で爆弾片手 夜が苦しい
安っぽいナイトショーのワンシーンみたいな夢が見たい
「爆弾魔」という物騒なタイトルどおり、「すべてを爆破したい」という破壊衝動に駆られた人物が語り手です。
万が一、実行に移したら大事件になる話なので、たとえ創作物でもせめて「心の中で思っているだけ」というオチをつけてもらわないと困ります。
いや、思うだけでも決して近寄りたくない危険人物でしょう。
ただ「安っぽい~夢が見たい」という、冗談にしても笑えない軽口を叩いているところがポイントです。
何しろ「すべてを爆破」したら「ナイトショー」も「夢を見る自分」もなくなるので本末転倒というか、筋が通りません。
それでもわざわざ冒頭に「夢が見たい」と盛り込まれている理由は、「爆弾魔」という楽曲全体が「安っぽい~夢」仕立ての物語になっているという取扱説明書が必要だから。
何らかの思惑があることは確認できたので、続きを見ていきましょう。
今日も出来ませんでした
爆弾魔 / 作詞・作曲:n-buna
今日もやれませんでした
青春の全部を爆破したい
君のことを歌にしたい
「爆破したい」と思うだけでも恐ろしいとしても、実行するか否かは大きな違いなので、ひとまず一安心です。
しかも「爆破したい」対象が「みんな」から「青春の全部」に縮小されました。
おそらく語り手は「青春」を過ぎた大人なので、「思い出を爆破したい」という話でしょう。
「過去を忘れたい」くらいのことを大げさに語っているだけだと判明しました。
さらに「すべてを爆破して→夢が見たい」と同じ調子で、「青春を爆破して→君を歌にしたい」と続きます。
この日々を爆破して
爆弾魔 / 作詞・作曲:n-buna
心ごと爆破して
ずるいよ 優しさってやつちらつかせてさ ずるいよ全部
1番のサビ前半です。
「爆破したい」対象が「この日々」と「心」に変わりました。
どうやら「優しい君」に振られたことが破壊衝動の引き金になったようです。
この部屋を爆破したい
爆弾魔 / 作詞・作曲:n-buna
夢がなきゃ生きられない
だから今 さよならだ
吹き飛んじまえ
1番のサビ後半です。
「爆破したい」衝動に駆られても実行できない状態なので、対象が「この部屋」に変わっても大丈夫でしょう。
要するに「君という夢」を失い、自暴自棄になっているわけですね。
君が消えたことが原因だった
死んだ目で爆弾片手に街を歩く
爆弾魔 / 作詞・作曲:n-buna
誰も見向きもしないんだ 爆弾を翳したとて
「爆弾を翳す(かざす)」ことによって注目を集めたい心境が表現されています。
ずっと泣けませんでした
爆弾魔 / 作詞・作曲:n-buna
ずっと笑えませんでした
青春の全部に君がいる
風が吹けば花が咲く
「青春の全部=君」だとすると、「君との思い出を忘れたい」という話ですね。
「君に失恋した後、泣くことも笑うこともできず、破壊衝動に駆られている」とのこと。
「爆破して→夢が見たい、君を歌にしたい」と同じ調子で、「風が吹けば→花が咲く」と表現されているのは、今後明かされるオチの伏線です。
あの夏を爆破して
爆弾魔 / 作詞・作曲:n-buna
思い出を爆破して
酷いよ 君自身は黙って消えたくせに
酷いよ全部
2番のサビ前半です。
とうとう「爆破したい」対象が「あの夏」と「思い出」に限定されました。
しかも「まるで爆破されたみたいに、君が消えたせいで起きた衝動だった」ことが明らかになります。
この街を爆破したい
爆弾魔 / 作詞・作曲:n-buna
このままじゃ生きられない
だから今 さよならだ
吹き飛んじまえ
2番のサビ後半を1番と比較すると、「爆破したい」のが「この部屋→この街」、「生きられない」のが「夢がなきゃ→このままじゃ」に変わりましたが、ニュアンスはほとんど同じです。
結末はどうなった?
もっと笑えばよかった
爆弾魔 / 作詞・作曲:n-buna
ずっと戻りたかった
青春の全部に散れば咲け
散れば咲けよ百日紅
さて、ようやく「爆弾魔」のオチというか、楽曲制作の根本にたどり着きました。
3番の冒頭では、江戸時代の女流俳人・加賀千代女(かがのちよじょ)の俳句「散れば咲き 散れば咲きして 百日紅」(句集『松の声』)が少々アレンジの加えられたかたちで引用されています。
サルスベリの花単体は咲いた当日にしぼみますが、次々と開花し、100日近く咲き続けるので「百日紅」。
名前の由来となったのは「ある娘を救った王子が、約束の100日後に旅から戻ると娘は亡くなっていて、その墓から生えた木に100日間、花が咲き続けた」という韓国の伝説です。
「爆弾魔」の語り手にとって「青春の全部」である「君の思い出が散った」のなら、サルスベリのように次々と花開くべきだという主張でしょう。
この日々を爆破して
爆弾魔 / 作詞・作曲:n-buna
心ごと爆破して
辛くてもいい 苦しさも全部僕のものだ わかってるんだ
3番のサビ前半です。
語り手の目的は「花を咲かせること」にあり、その手段として「散る=爆破する」必要があるという論理かもしれません。
原因となった失恋の痛手が「自分のもの」であることは自覚しているようです。
この星を爆破したい
爆弾魔 / 作詞・作曲:n-buna
君を消せるだけいい
今しかない いなくなれ
3番のサビ後半です。
「爆破したい」対象は「街、部屋、日々、心、夏、思い出」に「星」も加わりましたが、実はいずれも「君」をあらわしているとも考えられます。
次々と咲いてはしぼむサルスベリに重ね合わせるように、さまざまな対象を持ち出しているのかもしれません。
いすれにしても「君自身は黙って消えた」わけですが、残された語り手の心の中には常に「君」がいて、いまだに「消えていない=忘れられない」のでしょう。
この夜を爆破したい
爆弾魔 / 作詞・作曲:n-buna
君だけを覚えていたい
だから今 さよならだ
吹き飛んじまえ
1番のサビ前半が繰り返された後のラスサビです。
最後に「夜」も「爆破したい」対象に加わり、「実際に消えた君」の記憶を「消したい」のか、「覚えていたい」のかについても矛盾したまま終わりました。
「君のことを歌にする=花を咲かす」のが最終目的で、「君」以外は何も残らない(すべてを散らす=爆破する)結末なのかもしれませんね。

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さいごに
「爆弾を翳した」のはこの楽曲に注目を集めるためで、「百日紅」の俳句になぞらえた「君の歌」という点が肝でしょう。
失恋の痛手からは立ち直りたいけれど、「君の歌」は永遠に残ってほしいという矛盾した気持ちが「百日紅の花=爆弾」で表現されていたと考えられます。