今回は2011年6月29日にリリースされたアルバム「大発見」の3曲目に収録されている「新しい文明開化」の歌詞考察をしていきます。
東京メトロのCMソングに起用された「新しい文明開化」は、作詞はヴォーカルの椎名林檎さんが、作曲は椎名林檎さんとキーボードの伊澤一葉さんが手掛けました。
歌詞は英語ですが、ライブで披露された公式の和訳と共に、早速歌詞考察を始めていきましょう!

新しい文明開化 歌詞考察
一撃で打ちのめされたい

いますぐ 打ちのめされたい
地に足が ついて居ないから
次の一撃で くたばるはずさ
歌詞の中の登場人物は主人公(英語ではI)と主人公が呼びかけている「我が同胞」(英語ではMY FRIEND)です。
主人公は誰かから「打ちのめされたい」と思っています。しかも「打ちのめされ」「くたばる」ことを予測しています。その理由は「地に足が ついて居ないから」です。
その理由も自覚した上で、誰かから負かされるのを待っている状態のようです。
主人公を「打ちのめす」のは、第三者なのか、はたまた自分自身なのか、ここでは知る由もありません。
今の自分が変わることを望んでいるのには間違いない、と言えるでしょう。


目を凝らせば凝らすほど 麗しい花しか見えない
耳を澄ませば澄ますほど 甘い声しか聴こえない
鼻腔めがけ強く吸い込めば 嗅覚はやおら沈黙し
吐気を催さんばかりに頬張れば 味覚が散らかる
手を伸ばせば伸ばすほど 欲しかった物を忘れて
閃いたと思えば思うほど あらゆる観念が遠退く
ここでは、主人公の現状が描かれています。
主人公の目に映るものは「麗しい花」ばかり。耳には「甘い声しか」聴こえません。
現在の主人公は恐らく居心地は悪くなく、寧ろ主人公にとって都合の良いものしか目に入らず、耳にも入ってこないような状況のようです。客観的にみれば、甘やかされていると思えるでしょう。
嗅覚と味覚に関しては、どうも鈍っている様子です。
鼻から空気を「強く吸い込」んでも「沈黙」とあり、嗅覚が正常に働いていない様子です。
更に、「吐気」がするまで食事をしてしまうほど、味覚の方も「散らかる」とあり、鈍っているのでしょう。
欲望のままに様々なものを手に入れてきても、本当に「欲しかった物」は手に入れていないどころか、その「物」自体も「忘れて」しまっています。
また、「閃き」を渇望しているにも関わらず、ほど遠い状況に陥っているのが主人公の現状のようです。
何でも手に入り、食べたいものを飽きる程食べ、耳障りの良いものや綺麗なものばかりに囲まれている主人公は、一見幸せで成功しているように思えますが、心のどこかで居心地の悪さや違和感のようなものを抱えていると言えるでしょう。


やぁやぁ ごきげんよう
見ろ 触れろ 思い知れ
感じろ 忘れろ 嗅げ だってほら
狂っていくのが見えるだろう
我が同胞よ
ここでは、様々な感覚が鈍り切った主人公自身が「我が同胞」に向けて、如何に自身が「狂ってい」っているのかを語っています。
主人公は自身の抱いている居心地悪さや違和感を、友人にも認知して欲しい、と切望し、更には現状を何とかして欲しいと願っているのは明白だと言えるでしょう。


この指先は宙を弄るばかりさ
握り拳一発でヤられるだろう
どうしたんだよ
事態は容易くあまりに明白
足蹴り一発でヤられてやるよ
1234 ゴカクゴ
5678 ナムサン
ここでは、「握り拳一発で」「足蹴り一発で」とあり、主人公が如何に危うい状態にいて、いつでも誰かからあっという間に「打ちのめされる」だろうと予測していると同時に、「打ちのめされ」たいと願っているのがわかります。
過去を蹴散らし勝負せよ

一方舌をまわせばまわすほど 事を荒立てる一方だし
吐気を催さんばかりに頬張れば 味覚が散らかる
足を運べば運ぶほど 求めていた物を思い出せず
極まれりと感じるたび 萬の想念は打ち砕かれる
主人公は「事を荒立て」たいと思っており、相変わらず「味覚」も鈍ったままです。そして感じるもの全てを吐き出したいと思っています。
更に「萬の想念は打ち砕かれる」とあり、沢山の「閃き」があったと感じてもたちまち打ちのめされるという苦しい状況に主人公はいるようです。
つまり物事が上手く行っていない、一種のスランプ状態に陥っていると言えるでしょう。


ごきげんよう やぁやぁ
見ろ 触れろ 思い知れ
感じろ 忘れろ 嗅げ だってほら
狂っていくのが見えるだろう
我が同胞よ
ここは日本語訳は1番のリピートとなっていますが、英語は「I THINK I’M LOSING MY MIND」、つまり気が狂っているみたいといった意味合いの歌詞が、2番では「I KNOW THE MILES GET OLD」に変わっています。
ここでMILES=マイル・スデイビス(Miles Davis)が登場しているのに注目してみましょう。
マイルス・デイビスはモダンジャズの帝王とも言われたアメリカのトランペット奏者です。ジャズ界の大御所でありながら、ジャズの垣根を超えて常に新しいことに挑戦していたアーチストです。
そんなマイルスを引き合いに出し、あのマイルスデイビスでさえ古いよね、といった具合に、常識だと思っていることも覆される、ということが明示されています。
この歌詞を書いた椎名林檎さんは、新しい音楽を作り出し、成功し、満足しているように思えます。しかし、何処か違和感や苦しみなども経験しているのでは、と思わせられます。
そして、その現状を「我が同胞よ」と東京事変のメンバーに呼びかけ、曝け出しているかのように思えてなりません。


しくじるなよ
地に足が付いて居ないんだ
次の一撃でくたばるはずさ かならずや
なんだったんだ
幾度なぞっても冴えない過去
発見のない勝負はこりごり
どうしたんだよ
誰も知らない私の本当の脚は
両方過去にへばりついてる
そしてラストサビですが、更に「打ちのめされたい」という願いが強く表されています。
英語では、「過去」に対して護るに値しない、何が正解だったのか?と語られています。
また和訳では「冴えない過去」「過去にへばりついてる」と、中々痛烈な表現がされています。
そして「発見のない勝負はこりごり」と、収録されているアルバムのコンセプトでもある「大発見」になぞらえていると思われるフレーズも見受けられます。
過去の栄光とは決別し更に新しい音楽をつくりたい、という願いのようなものが苦しみと共に伝わってくるラストとなっています。

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さいごに
本楽曲「新しい文明開化」というタイトルの「文明開化」を広辞苑で見てみると、人知が開け、世の中が進歩すること。特に明治初年の近代化や欧化主義の風潮を言った。とあります。
いつも先端の音楽をリリースし、音楽のみならず存在全てに目を奪われてしまう椎名林檎さんと椎名さん率いる東京事変。
椎名林檎さんや東京事変の楽曲リリースは、まさに音楽業界にとって毎回が「文明開化」そのものだと言えるでしょう。
しかし、そんな先端の音楽をも超える「新しい」ものを作り出そうと藻掻いたり、渇望したりしている心情がリアルにストレートに描かれた歌詞の世界とは裏腹な明るい曲調(とMV)で最高にポップな楽曲へと昇華された「新しい文明開化」。
本楽曲を手掛けた東京事変の今後の楽曲にも是非注目したいですね!